[ウルドゥー語/ヒンディー語ページ文法超特急・1]

文字と発音

Since 2004/4/23 Last Updated 2004/4/25


     ウルドゥー語とヒンディー語をできるだけ一緒のものとして扱うのがこのサイトの方針なのですが、 両者が一番違うのが文字です。 ましてどちらの文字も、日本人にはなじみのない文字なので、 どうしても書くことが多くなってしまい、「文法超特急」になりません。
     そこでここでは、両者に共通な発音の話にしぼり、 文字の話は必要最小限にします。 両方の文字に関して詳しいことは、別ページにまとめましたので、 そちらを見てください。
    1. [途中下車]ウルドゥー語の文字
    2. [途中下車]ヒンディー語の文字

  1. 文字
  2.  ウルドゥー語はアラビア文字で、右から左に書かれます。 しかもアラビア文字の中でも、ナスターリーク体と呼ばれる、 漢字の行書にあたる、ナナメに流れるような書体で書きます。 漢字の楷書にあたるナスフ体でも悪いわけではないんですが、 パキスタンでもインドでも、 ウルドゥー語使用者たちがナスターリーク体に寄せる思いは尋常ではなく、 ナスターリーク体でなければウルドゥー語とは言えないかのようです。 実際、アラビア語とウルドゥー語が混在する文書では、 アラビア語をナスフ体で、ウルドゥー語をナスターリーク体で書く習慣もあります。 ナスターリーク体は活字になじまず、 コンピュータでナスターリーク体を出せるようになるまでは、 印刷物はすべて手書きだったらしいです。 ナスターリーク体はペルシアで開発された書体なので、 ペルシア文字と呼ばれることが多く、 このサイトでも以下、ペルシア文字と呼びます。 そのくせ現代のイランではナスフ体を使っていたりします。
     一方、ヒンディー語はデーヴァナーガリーと呼ばれる、 インドで伝統的にサンスクリットなどを表記してきた文字で表わします。 ヒンディー語以外にも、マラーティー語、ネパール語など、 他のインド系言語の表記にも使われています。 こちらは左から右に書きます。
    ナスターリーク体 ナスフ体 デーヴァナーガリー
    ウルドゥー語 ヒンディー語
    トイレはどっちでしょう?
     なお、日本人、特に中高年層の人は、 小学生のときに漢字の筆順をやかましく指導されたのがトラウマになっているのか、 文字の筆順を気にする人がたくさんいます。 私は筆順なんかどうでもいいと思っているのでここでは一切扱いません。 どうしてもというなら、次のサイトを見れば、筆順がわかります。
    1. ペルシア文字…… アラブ・イスラム学院 ……「アラビア語カフェ」の「アラビア文字学習」。 ただしナスフ体なので注意。
    2. デーヴァナーガリー…… 町田和彦のホームページ ヒンディー語の世界へようこそ ……「デーヴァナーガリー文字ってなーに?」
     デーヴァナーガリーは文字の上部の横線が特徴的です。 この横線のことをシロレーカーといいます。 サンスクリットの <(頭の線) という意味です。 シロレーカーは単語ごとに後から一気にひくのが普通で、 手書きの場合、書かれないこともあります。

  3. ローマナイズ
  4.  ペルシア文字は原則として子音しか表記せず、 どういう母音をつけて読むかはいちいち覚えていなければなりません。 一方、デーヴァナーガリーは母音も表記しますが、 現実の発音とは細かいところで差異があったりします。 どちらにしても、入門段階ではローマナイズは欠かせません。
     ウルドゥー語とヒンディー語とではローマナイズの方法がちょっと違います。 それはやはり、もともとの文字の音価に引きずられるからでしょう。 しかも、ローマ字で表わせない特殊な音をどういう記号で表わすか、 また、現実の発音に即して書くのか、 もともとの文字の音価に近い形で書くのかといった方針の違いによって、 ローマナイズにはさまざまな方法があります。
     そこで以下、このサイトでのローマナイズの方法を示しながら、 文字と発音の概説をします。
    このサイトのローマナイズの基本方針は、
    1. デーヴァナーガリーに準拠する ……ペルシア文字とデーヴァナーガリーとでは、 やはりデーヴァナーガリーのほうが言語学的に洗練されているので、 デーヴァナーガリーに準拠します。
    2. 音素表記にする ……現実の発音では前後の子音の音色によって母音の音色が変化することがあるのですが、 このサイトでは、できるかぎりデーヴァナーガリーをそのままローマナイズするようにし、 現実の発音との異なりや、ウルドゥーとの発音の異なりは、必要に応じて注記する。

  5. 母音
  6. ローマ字
    ヒンディー(独立、語頭体)
    ウルドゥー(母音記号つき)  
     は短母音、 は長母音ですが、 単に長さの長短の関係だけでなく、 はアとエの中間のような非常にあいまいな発音になります。 また日本人の感覚の短母音がちょうど長母音にあたる感じで、 非常に早口に発音されることにも注意しましょう。
     は必ず長音になることに注意してください。 しかし現実には、他の母音が変化して短母音のが発音されることがあります。 そういう場合は本サイトでは、 と表記します。
     は実際には二重母音と言うより、 口を大きく開けたであり、 エー、オーと聞こえます。 二重母音風に聞こえる場合もせいぜいアエ、アオです。
     はサンスクリットではふつうと転写される、 母音としてのです。 ウルドゥー語/ヒンディー語でははそり舌音のの転写に用いるので、 ここではの上に白丸を書いて表現することにします (の下に白丸というほうが普通ですが、 それだとと区別がつきにくいもので)。 いずれにせよこれは、サンスクリットからの借用語にのみ用いられるもので、 ヒンディー語でもめったに出てきませんし、 ウルドゥー語の場合はたいてい別の語で表現されるので耳にする機会はありません。 伝統的には「リ」のように発音されますが、 インド人は「ル」のように発音するのが普通です。

     ヒンディー語のデーヴァナーガリーは音節文字です。 よって、子音の次の母音は、子音と一緒に表記される形になるので、 母音単独のときの形とは異なります。詳しくは、 [途中下車]参照。

     ウルドゥー語のペルシア文字では、 短母音はふつう表記されませんので、 上表で母音記号だけで書き分けているものは、 実際には同じになってしまいます。詳しくは、 [途中下車]参照。

  7. 鼻母音
  8.  を除く全ての母音は、鼻に空気を抜く鼻母音になることがあります。 時々でローマナイズされることもあるのですが、とは違います。 本サイトでは母音の上に〜を書いて表現します。
    ローマ字
    ヒンディー(独立、語頭体)
    ウルドゥー(母音記号なし)
     ヒンディー語では母音の上にをつけますが、 シロレーカーの上に母音記号などが出っ張っている場合には単なる点になってしまい、 サンスクリットのアヌスヴァーラみたいになってしまいます。詳しくは、 [途中下車]参照。
     ウルドゥー語ではで表わします。 これはの点を抜かした字体ですが、 語中の場合は同じになってしまうので注意が必要です。詳しくは、 [途中下車]参照。

  9. 子音(昔からある音)
  10. 無声/有声 無声 無声 有声 有声 (有声) (有声) (無声) (有声)
      無気 帯気 無気 帯気 鼻音 半母音 歯擦音 気音
    軟口蓋音 ローマ字 1. 2. 3. 4. 5.     33.
    ヒンディー    
    ウルドゥー      
    硬口蓋音 ローマ字 6. 7. 8. 9. 10. 26. 30.  
    ヒンディー  
    ウルドゥー    
    そり舌音 ローマ字 11. 12. 13. 14. 15. 27. 31.  
    ヒンディー  
    ウルドゥー      
    歯音 ローマ字 16. 17. 18. 19. 20. 28. 32.  
    ヒンディー  
    ウルドゥー  
    唇音 ローマ字 21. 22. 23. 24. 25. 29.    
    ヒンディー    
    ウルドゥー    
     上の表のローマ字の左につけられた数字は、 デーヴァナーガリーの辞書での文字順を示しています。
     それぞれの文字の詳しい点は「途中下車」を見ていただくとして、 発音で注意すべきところは……
    1. が後についている「帯気音」 (2,4,7,9,12,14,17,19,22,24) は、息を強く出しながら発音します。 だから本来はは、 カハ、ガハのようにを別々に発音するのではなく、 息を強く出しながら一気にカ、ガと発音するはずなのですが、 現実の発音はけっこうカハ、ガハのように、 ハが分かれて聞こえるときがあります。
    2. そり舌音(11-15)は、舌をちょっとそらせて強く発音する音です。 英語のtやdは、インド人はそり舌音のほうで転写します。
    3. などを発音する要領で出す鼻音で、 ngにあたります。 はンガという感じです。 同様に、はニャ、 はそり舌音のナです。 この3つは、単独で使われることはまずなく、 次に子音が来たときの影響で鼻音がそういう音に変わるというのがほとんど、 しかも、サンスクリットではちゃんとこういう文字で書くのですが、 ヒンディー語では別の表記法(途中下車参照)で表わすのがほとんど。 よって、現実的にはほとんど見かけません。 ウルドゥー語のほうにこれにあたる文字がないのはこのためです。
    4. 27のは、 一応対応させればここにあたるよというだけで、 普通の巻き舌のrです。 次の「子音(新しくできた音)」にあるように、現代のウルドゥー語/ヒンディー語では、 これとは別に、そり舌音のrも存在します。
    5. 31のはそり舌音のsですが、 現代語では30の (普通のシャ)と区別がありません。 サンスクリットの借用語に用います。 ウルドゥー語のほうに文字がないのはそのためです。
    6. 29のは、wのように発音されることも多いです。

  11. 子音(新しくできた音)
  12. ローマ字 1. 2. 3. 8. 9. 13. 14. 22.
    ヒンディー
    ウルドゥー
     伝統的な子音の配列は上記のとおりですが、 近代になって発達したり、 外来語を表記したりするのに必要な文字がいくつかあります。 デーヴァナーガリーでは、それに近い文字の下に点を打ってあらわし、 辞書では元の文字と同じところに配列します。
     はそり舌音の、その帯気音がです。 この2つはウルドゥー語/ヒンディーで独自に発達した音です。
     それ以外は主にペルシア語、アラビア語、英語からの借用語のうち、 ウルドゥー語/ヒンディー語の既存の音になまることなく、 原音どおり、もしくは原音に近い形で発音される音です。 はのどの奥のほうのk、 はのどの奥のほうのh、 はのどの奥のほうのg、 は英語のzと同じ、 は英語のleisureのs、 は英語のfと同じ。


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