本生物語・解説

まんどぅーか


  1. 「ブッダが今生で悟りを開いたのは、決して今生における修行の結果だけではなく、過去世においてさまざまな善行を積んだ結果である」という考えのもとに、さまざまな説話が「ブッダの過去世におけるさまざまなエピソード」として再構成されたものが、本生物語()と呼ばれるものである。
  2. パーリ大蔵経では小部経典に属する経典として、547編の説話が収録されている。ストーリーが親しみやすく読解も容易なので、パーリ語リーディングの入門教材としてふさわしく、各種のリーダーにもさまざまな本生物語が収録されている。しかし、形式にやや独特な点があり、そういう点で最初のうち混乱するかもしれないので、ここに注意事項をまとめておく。
  3. 本生物語が各種のリーダーに収録されるとき、ほとんどの場合は、おしまいに1〜2編の詩が入っている一編の説話という形になっている。しかしパーリ大蔵経においては、本生物語の本文とはこのおしまいの1〜2編の詩のみであり、説話部分はその詩の註という扱いをしている。パーリ大蔵経の本文をおさめたサイトとしてVRIが有名だが、(本生物語経典)というところを見ても詩が羅列されているだけで、おめあての本生物語が収録されていないのはそのためである。説話部分を見るためには(本生物語註釈)というところを見なければダメである。この点にまず注意されたい。
  4. (本生物語註釈)の構成は次のようになっている。
    1. 前段=現在世物語
    2. 本文=過去世物語
    3. 詩句(偈)…経典本文
    4. 詩句(偈)の註
    5. 後段=前段と本文との結合
    6. 題名
    1. まず現在世の物語がある。たとえばデーヴァダッタがブッダを殺そうと画策しているなどといった現在の事件があり、ブッダが「それは現在世だけのことではなく、過去世にも同様のことがあった」という形で次の話を導く。
    2. 過去世の物語。ここが説話の本体であり、各種のリーダーではこの部分だけ(次の(3)「詩句」を含む)を採録するのが普通である。なお、過去世の物語においては、ブッダはまだブッダになる前の段階であるという意味で「菩薩」()と呼ばれている。
    3. 過去世の物語の中には1編から数編の詩句(偈)が引用される。通常は最後のほうである。伝統的にはここだけが狭義の本文つまり経典本文ということになる。
    4. 詩句(偈)に関する註釈。ここが一番註釈らしいところである。語句の言い換えを主とするので、日本語に訳すと無意味になることもしばしばである。
    5. 後段。今ブッダが説いた過去世の物語について「過去世の物語のこの人物は現在世のこの人物である」など、意味を解き明かす部分である。
    6. この話の題名が記される。
    1.の「現在世物語」の冒頭では、3.「詩句」の冒頭数語を引用して、「この詩を含む話は、こういう場面で語られたものである」という形で始まるのが普通である。
  5. 当サイトのリーディングでは、上記1.の部分には[前]、3.の部分には[詩]、4.の部分には[註]、5.の部分には[後]、6.の部分には[題]という印をつけた。