[パーリ語ページ参考書]

パーリ語学習書・辞書

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  1. 文法書
    ブックマーク=#mzbun

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    水野弘元『パーリ語文法』
    1955.山喜房佛書林.ISBN4-7963-0010-4. 3000円+税.A5−333ページ.
     日本語で書かれたパーリ語の文法書は仏教系書店にいくと他にもいろいろあるんですが、広く入手できるものとしては唯一のものと言っていいかもしれません。そんなわけで教科書として広く用いられています。
     単なる初等文法だけでなく文論からパーリ語概論から研究史からいろいろ入っていてもりだくさんで、それはそれでおトクな本なんですけど、そういう部分は初心者にははっきりいって宝の持ち腐れ。名著には違いないんですが、文体もちょい古めかしく、今となっては急速に『実習梵語学』化(つまり説明の日本語の読解のほうが難しい)しつつあると思います。
     練習題もないんで、入門者がこの本を使う場合、まずはざっと目を通して、どこに何が書いてあるかを頭に入れたうえで、いきなり『パーリ語仏教読本』なんかにトライするしかありません。それじゃハードルが高すぎます。
     そして説明も、あまりにサンスクリットとの対照が多すぎ。たしかにサンスクリットやってからパーリ語やる人は多いんでそういう人には便利には違いないんですが、パーリ語からやる人にはつらいんじゃないかな。
     それやこれやで、私としては、この本とは別に、初等文法にしぼった教科書を強く待望します。わかりやすい文章で、サンスクリットの知識も必要なく、練習問題豊富(できれば解答つき)で、もちろん語彙集もついたやつが。サンスクリットでいうゴンダ文法のようなテキストですね。うむむ? このサイトでそういうものを作れってか? そういう発想で作ったのが当サイトの「パーリ語入門」なんですけどね。
     あとは巻末に、いろいろな文字の表が載ってますが、手書きのものもあって見にくいのが難点。とくにシンハラ文字が非常に読みにくいのがつらい。だってパーリ語テキストっていったら、スリランカで出てるシンハラ文字のやつが多いでしょ?
    ブックマーク=#intp

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    A.K.Warder : Introduction to Pali Third Edition
    1963/1974/1991.Pali Text Society(Oxford).A5−475ページ.
     PTSから出ている入門書。上記水野文法で私がぶつくさ書いた不満点のほとんどすべてが解決されている本。ただし英文で説明されているのがつらい。それから文法事項はこまぎれ説明のトレーニング式(つまり文典順でなく、動詞ちょろ→名詞ちょろ→動詞ちょろ→…という順)なので文法リファレンスとしては使いにくい。
     なお、音声教材が出ています。テープ1巻またはCD(約40分)。穂高書店で本がCDつきで6000円で出ていますし、山喜房ではテープ単体でも売ってたような記憶がありますんで、その手の本屋さんで問い合わせてみてください。
    ブックマーク=#kpali

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    ペク・ドス(白道守)『初級パーリ語経典講読』()
    2001.民族社.ISBN89-86252-21-X.12000ウォン(1200円程度).A5−302ページ.
     韓国に行ったときにサンスクリット本同様にパーリ語の本を探して見ました(いきさつはこちらを参照)がこの1冊しかありませんでした。前半71ページで文法をまとめ、そのあとは読解練習。文法のまとめは簡潔でいいし、読解は文法解説と答えがついているのでけっこう役立ちますが、簡単な語彙集もついています。なお、「基礎購読I」は、上記WarderのIntroduction to PaliのLession 1〜18をそのままとってきているので、Introductionのアンチョコに使えます(Introductionにも答えはついているんですが、こっちは文法を詳細に解説しているし、Lesson 1の1なんか、英語の答えの"The thus-gone speaks."なんて、何のことだかわかんなかったけど、この本を見れば「如来は話す」だとすぐわかる。やっぱり英語よりも韓国語のほうが日本語に近くていい)。



  2. 辞書
    ブックマーク=#mzdic

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    水野弘元『二訂 パーリ語辞典 付・パーリ語文法』
    1968/1981.春秋社.ISBN4-393-10103-0.3675円+税.A5変型−384ページ+目次等計14ページ.
     学生用パーリ語辞典(パーリ語→日本語)の定番。小辞典ですが、それだけに扱いやすく、とりあえず各種リーダーを読むのは十分。巻末にある文法のまとめはコンパクトでわかりやすく、意外に『パーリ語文法』よりいいかもしれません。
    ブックマーク=#mzdicn

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    水野弘元『増補改訂 パーリ語辞典』
    1968/1981/2005.春秋社.ISBN4-393-10156-1.4500円+税.A5変型−425ページ+目次等計11ページ.
     上記辞典の増補改訂版です。従来はケース入りでしたが今回はケースがなく、かわりにハードカバーになっています。これは一長一短で、私はハードカバーじゃないほうが好きだったんですが。ともあれ今後は(古書店を除けば)こちらの形でのみ入手可能になるのでしょう。
    ブックマーク=#kumoidic

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    雲井昭善(くもい・しょうぜん)『パーリ語佛教辞典』
    1997.山喜房佛書林.ISBN4-7963-0891-1.25000円+税.B5−(本文)993ページ.
     著者は以前(1961)に『巴和小辞典』という辞書を作りましたが、その改訂をやったらこういうでっかい辞書になっちゃったというものです。語数は不明ですが、序によれば、水野辞典の語彙は(たぶんすべて)含まれているようです。編集年次が新しいので、水野辞典の訳語がよくわからないときの確認用に便利です。また、例文とその訳があるので、幸運な場合には訳読の答えにそのまま使うことができるかもしれません。値段が値段だけに購入には決意がいりますが(なにしろ、こういうサイトを立ち上げていて当然購入すべきまんどぅーか自身が最初の2年間は買えず、やっと2006年4月に買った)、大辞典レベルでは唯一のパーリ語−日本語辞典なので、できれば購入したい辞書です。
     なお、25000円という定価は特別定価ということで、機械読取の定価のところは30000円なんて書いてありますが、増刷される見込みもないので、実質的に25000円というのが最終定価、専門書店ではもう少し安く買えるかもしれません。
     冒頭に文法のまとめと『パーリ語辞典の編纂史』があるので、総ページ数は1000をちょっと越えています。
    ブックマーク=#rhpe

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    T.W.Rhys Davids, William Stede : The Pali-English Dictionary
    1921-35.London. Pali Text Society..A4−738ページ.
     定番の大辞典。PTSでは現在新しい辞書(Margaret Cone『A Dictionary of Paali, Part I, A-Kh』, 2001)を作成中ですが、これが完結するまでは最高のパーリ語辞典といえるでしょう。ただ、ゆったりとした2段組なので、図体のわりにそう語彙は多くない印象を受けます。左の写真はMotilal BanarsidassからリプリントされたものでRs.600。つまり3600円で入手できます。上記水野辞典のはしがきに、「専門にパーリを研究するためには、PTSの大辞書は不可欠のものであるが、これはかなり高価で学生には勧められない」なんて書いてありますが、インドから安いリプリントが出た今となっては、逆に水野辞典より安価で買えてしまうというのがなんとも皮肉です。
    ブックマーク=#bmep

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    A.P.Buddhadatta Mahathera : English-Pali Dictionary
    1955.London. Pali Text Society.A5−588ページ.
     英巴辞典として定番。左の写真はMotilal BanarsidassからリプリントされたものでRs.350。つまり2100円で入手できます。



  3. 読本
    ブックマーク=#mzrd

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    水野弘元『パーリ語仏教読本』
    1957.山喜房佛書林.ISBN4-7963-0011-2.1500円+税.A5−170ページ.
     定番の読本です。巻末にある語彙集は、BuddhadattaのConcise Pali-English Dictionaryにない語彙だけを載せているので、これだけでは足りず、何かしらの辞書が必要です。とりあえずは水野辞典と併用して読解しましょう。
    ブックマーク=#mzrdans

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    水野弘元著 西田亨一(こういち)訳『和訳 パーリ語仏教読本』
    2001.山喜房佛書林.ISBN4-7963-0125-9.2000円+税.
     西田さんはアマチュアですが、水野先生の読本で勉強なさり、その訳の成果を本になさったというわけです。こういう本が出たので独習者には便利です。なお、訳されているのは分量的に読本の前半分程度(35章中25章まで)です。
    ブックマーク=#andersen

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    Dines Andersen : Pali Reader And Pali Glossary
    1901/1910.Copenhagen. 2巻. B5−132ページ+288ページ.
     サンスクリットのランマンの読本に相当するような定番のパーリ語読本です。著者の名前はアンデルセンと呼ばれていますが、デンマーク人で、本当は「アナセン」ないし「アナスン」なのでしょう。2巻構成で、1巻目が本文と注、2巻目が語彙集です。左はインドのAsian Educational Servicesでリプリントされたものですが、少々お高くてRs.695。だから日本の書店で買うと4170円ですね。
     なお、この語彙集の全文を種智院大学の橋本哲夫先生が入力して配布なさっています(→こちら)。当サイトの「語彙集」は、このデータおよびそれをまんどぅーかが独自に日本語化したものを用いています。この語彙集は単なる読本の付録とあなどってはいけません。文法的情報、たとえばこの動詞の目的語は何格になるとかいうような情報がやたら詳しく、PTSの辞典を見ても解決できなかった疑問がこの語彙集を見るとあっけなく解決する、ということがずいぶんあります。この語彙集目当てだけでも購入すべきかもしれません(当サイトの語彙集で足りるといえば足りるんですが)。



  4. その他の参考書
    ブックマーク=#ndmoku

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    大蔵出版編集部編『パーリ原典対照 南伝大蔵経総目録』
    2004.大蔵出版.ISBN4-8043-0016-3. B6−616ページ.6000円+税.
     パーリ語の原典というとパーリ大蔵経、いわゆる「南伝大蔵経」がその中心になります。というより実質的にそのすべてといっても過言ではありません。ですから南伝大蔵経の全体構成や各経典に関する知識は必須です。パーリ語の経典名を見て(略号表示も珍しくありません)、それがどういう性質の経典であり大蔵経全体のどういうところに位置するかを知らなければ読解もままなりません。ちょうど高校生が古文の勉強をするのに、古典文法や語彙ばかり覚えて文学史を全然やらないということがありえないのと同じです。そんなわけで南伝大蔵経の目録だけでも手元においておくと何かと便利です。南伝大蔵経のすべての経典とパーリ語原典名が対照されており、各経典が南伝大蔵経の何巻の何ページにあるか、PTSではどういうタイトルで出版されているかがわかります。
     なお、大ざっぱな南伝大蔵経入門としては、当サイトの「パーリ語入門」の31章「パーリ語経典入門」もご利用ください。
    ブックマーク=#ptlanka

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    橘堂正弘(きつどう・まさひろ)『スリランカのパーリ語文献』
    1997.山喜房佛書林.ISBN4-7963-0033-3.4500円+税.A5−71ページ.
     上記のようにパーリ語文献というとパーリ大蔵経、いわゆる「南伝大蔵経」がほとんどすべてなのですが、実は南伝仏教各国では各国の文字で独自のパーリ語文献が書かれ出版されています。本書はスリランカにおいてシンハラ文字で出版された著作年代の新しいパーリ語文献のビブリオグラフィ。けっこう新しい(20世紀)本もあったり、ビルマなど他国で書かれた本がシンハラ文字で出版されていたりと、なかなか興味深いものがあります。
    ブックマーク=#palsutcd

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    アルボムッレ・スマナサーラ監修『パーリ語日常読誦経典』
    2005.株式会社サンガ.2800円+税.CD.B6−54ページの冊子つき.
     パーリ語の主要経典の読誦CDです。実はパーリ語経典を読誦したCDはダンマパダ(法句経)を学ぶ会というところから膨大な分量が出ています(仏教書店で入手可能)が、ちょっと膨大すぎてなかなか手が出ません。その点このCDのように主要なところが1枚でおさまっているものなら手ごろかなと思いますので紹介します。原文と訳を収めた小冊子がついています。さわりが株式会社サンガのサイトで聞けますのでお試しください。ただ、一部の内容が日本語になっていまして、スリランカの僧侶がたどたどしい日本語で読んでいるのはちょっとなんだかなぁと思うんですけど。



  5. 絶版の名著
    ブックマーク=#takard

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    (講本)
    (字書)
    高楠順次郎『巴利語仏教文学講本』
    1922.丙午出版社. A5−272ページ.(講本+字書の通しページ.うち講本は127ページ)
     日本のパーリ語界の草分け、高楠先生の作った語彙集つきリーダー。もとは英語で出版された A Pali Chrestomathy, with Notes and Glossary, giving Sanskrit and Chinese Equivalents という本らしいです。水野先生の『パーリ語入門』のp.233には、最初の出版年が明治33年つまり1900年とありますが、それはこの英語で出版されたやつのことだと思われます。本の奥付を見る限りでは日本語版の「講本」は1922年が最初のようです。
     もとは丙午出版社から、丙午出版社が明治書院に買い取られてから(1934)は明治書院からとなっていますが、私が入手したものはその直後の1935年明治書院時代のもので、1円70銭と書いてあります。それを神保町の東陽堂書店で2005年春に6000円で入手しました。水野先生の『パーリ語仏教読本』の「はしがき」に、高楠先生の講本が絶版になり古本屋にもほとんど見かけなくなり、パーリ語を教える大学ではますます不便になったうんぬんということが書いてあります。そんな貴重な本を入手できたとは幸いです。
     語彙集はパーリ語→英語をベースに日本語の説明を付加したもので、この本の成立事情がうかがわれます。上にあるように語彙集部分だけでも150ページあるしっかりしたもので、辞書が入手困難だった時代には貴重な教材だったことでしょう。
     水野読本のはしがきにはさらに、高楠先生の講本が入手困難になったので『読本』を出したとあり、水野先生の読本が高楠先生の講本とどう違うかがいろいろ書かれています。そのくらい水野先生は高楠先生の講本を意識していたんですね。でも両者を比べてみると、冒頭の教材はほとんど同じだったりするので、講本のいいところは水野読本にも継承されているというわけなのでしょう。
    ブックマーク=#tbplbun

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    立花俊道『巴利語文典』
    1910.丙午出版社.A5−101ページ+12ページ.
     日本のパーリ語草創期に出た文法書。巻末に12ページ、ジャータカのリーダーがついています。私が入手したのは初版本で定価1円。これを神保町の東陽堂書店で2005年春に3800円で入手しました。
     簡潔で使いやすい文典ですが、(心)を(自己)を(有徳者)をなどというふうに、子音で終わる名詞をすべて母音で終わる名詞扱いにしている点が大きく違います。これは南方仏教諸国での伝統的な教え方らしいです。このため今ではちょっと使いにくいかな。逆に、伝統文法を知るには貴重な本です。あとは、ローマナイズがちょっと今と違う(長音表記が山形だという違いだけ)とか、用語が若干違うとかありますが、それは小さな違いですね。
    ブックマーク=#nagaipl

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    長井真琴『独習巴利語文法』
    1930.丙午出版社. A5−120ページ.
     これも往年よく使われた文法書。私の入手したのは1938年、明治書院になってからのもので、1円50銭。これを神保町の東陽堂書店で2005年春に4500円で入手しました。
     立花文法と違って今と同じ流儀になっており、用語もほとんど現在のものと同じになっています。文語体・旧仮名旧字を改めれば完全に現在でも通用する教科書になります。現在唯一入手可能な水野文法が詳しすぎることを思えば、この長井文法をリニューアルして出すとかなり役立つんじゃないかな。これで練習問題と語彙集があれば無敵の教科書になるのに。あとは付録の「法数」つまり四諦とは何か、五蘊とは何か、八正道とは何かというような数えあげる式の用語をパーリ語で載せているのがとても便利。
    ブックマーク=#geigerj

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    Wilhelm Geiger著 伴戸昇空(ばんど・しょうくう)訳『PALI 文献と言語』
    1916/1987.Abhidharma Research Institute.B5−259ページ.5800円。
     水野先生が水野文法p.232で「パーリ文典として最もすぐれたものである」と絶賛している往年の文典Pali, Literatur und Spracheの訳本。一般書店では入手不能でしょうが仏教専門書店で見つかることも。私は山喜房で見つけて買いました。Abhidharma〜は京都市にあるようですが、現在も活動しているのかどうか不明なので連絡先は割愛します。
     1916年時点ではたしかに最も優れた文典だったかもしれませんが、現在では水野文法やPTSの文法書があるので、あえてこの本を持つ必要性はないかもしれません。しかも訳本は1987年当時のワープロを用いており、記号つきローマ字が全角の大きさになって見栄えがあまりよくありません。それはまだいいとしても印刷がかなり薄いページがあって読みにくいところがあります。
    ブックマーク=#higpbun

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    東元慶喜(ひがしもと・けいき)『初等パーリ語文法(An Elementary Grammar of the Pali Language)』
    1965.駒沢大学パーリ文学研究室/丸善.A5−313ページ.1800円/USD 8.4/STG 3-0-0。絶版
     表紙は文字ナシの真っ黒、中表紙も小さな文字で書かれているのみなので、表紙の写真は割愛。英文(タイプライター版下)で書かれたパーリ語初等文法。米ドルや英ポンドの定価もついていますが、外国向けに出版されたというよりもむしろ日本の大学の授業用に使われたのではないでしょうか。そのせいか例文や単語の訳語や術語には日本語訳がローマ字で書かれています。日本語で組版するとお金がかかるので英文タイプで版下を作ったのでしょう。非常に簡潔でリファレンス用に適しています。日本語で組版しなおせばもっとページ数も少なくなり、便利な本になるような気がします。あと、巻末の索引がアルファベット順になっているのが使いにくいのでパーリ語字母順にしてくれれば完全でしょう。




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