南伝仏教各国に伝えられているパーリ語経典は、日本では1935-41年にかけて高楠順次郎の監修のもと、当時のさまざまな学者が分担して翻訳し、『南伝大蔵経』65巻70冊(11、16、22、48、59巻が上下２冊になる)という形で出版されました。現在でも大蔵出版から１巻4500-5000円程度で分売可で入手できます。
なにぶん草創の仕事で、集団の手によるがゆえのムラもあり、文体も古めかしく、翻訳も疑問点が多々あるようですが、一応はパーリ語経典の多くが日本語で読めるようにはなっているわけです。もっともパーリ語経典のすべてが『南伝大蔵経』に収録されているわけではありません。
パーリ語経典は大きく
律蔵……僧侶、出家者の守るべき戒律の集成
経蔵……ブッダやその弟子たちの言行など
論蔵……経や律の解説、教義
また、これらに対する註釈が
と呼ばれます。註釈のさらに註釈もあり、
(復註)、
(新復註)などと呼ばれます。これらの註釈は内容的なものもありますが、その多くが語句の解釈であり、外国語に翻訳すると無意味になってしまいます。ですから『南伝大蔵経』にもほとんど入っていませんし、将来的にも日本語訳される可能性は絶望的に低いと思われます。逆に『ミリンダ王の問い』など、パーリ語三蔵に含まれていない重要文書も経典扱いされて『南伝大蔵経』に入っている場合があります。
このように、パーリ語三蔵と『南伝大蔵経』の内容とは完全には一致しませんが、「南伝大蔵経」を「パーリ語三蔵」の意味で使うこともあります。つまり、チベット・中国・朝鮮・日本などの大乗仏教経典の大蔵経と対比した「南方の大蔵経（すべての経典の集成）」という意味で使うわけです。このように、「南伝大蔵経」という言葉は、「南方の大蔵経」といういわば普通名詞としての意味と、昭和の日本で編纂された固有名詞としての出版物の意味との両義があるので注意してください。
またこのほか、『国訳大蔵経』『国訳一切経』『新国訳大蔵経』などの叢書中にもパーリ語経典の翻訳が収められていますし、岩波文庫からも中村元の訳で主要経典が出版されています。また、大蔵出版から片山一良訳で『パーリ仏典 長部』『パーリ仏典 中部』が翻訳・出版されつつあります。このようなさまざまな形で翻訳が出ています。
原典はPali Text Society(PTS)から出版されていますし、ネット上ではVipassana Research Institute(VRI)で原文を入手することが可能です。
Vipassana Research Institute(VRI)のサイトで経典のツリーを見ると、まず大きく、
(
)……経典本文- ……註
……復註- ……蔵外(このページの一番下を参照のこと)
の中にはというのも入っていますが、これは「新復註」という意味になります。()律蔵律蔵は僧侶、出家者の生活規則、規範、禁止事項を定めたものです。戒律の条文と解説を集めた「経分別」と、教団の規則に関する「
度部」、これらの補足の「附随」の３部からなります。
| 題名 | 略号 | 日本語題 | 日本語訳 |
|---|---|---|---|
  |
経分別 | 南伝1,2 | |
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度部 |
国訳論14; 南伝3,4 | |
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附随 | 南伝5 |
経蔵経蔵は分量的な長さに応じて、長部、中部、相応部、増支部、小部の５つにわかれます。この部分は、北伝仏教の漢訳阿含経では長阿含(じょうあごん)、中阿含(ちゅうあごん)、雑阿含(ぞうあごん)、増一阿含(ぞういちあごん)として収録されていますが、最後の小部に相当する漢訳は、全体としては存在しません(個々の経典の中には翻訳されているものがある)。
| 題名 | 略号 | 日本語題 | 日本語訳 |
|---|---|---|---|
  |
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長部経典 | 南伝6,7,8 |
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中部経典 | 南伝9-11下 |
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相応部経典 | 南伝12-16下 |
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増支部経典 | 南伝17-22下 |
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小部経典 | 南伝23-41 |
経蔵−長部経典
(大篇)は相応部にも同名経典があるので注意。| 題名 | 日本語題 | 日本語訳 |
|---|---|---|
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戒蘊篇 | 南伝6 |
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大篇 | 南伝6-7 |
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波梨篇 | 南伝8 |
経蔵−中部経典| 題名 | 日本語題 | 日本語訳 |
|---|---|---|
  |
根本五十経篇 | 南伝9-10 |
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中分五十経篇 | 南伝10-11上 |
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後分五十経篇 | 南伝11上-11下 |
経蔵−相応部経典(大篇)は長部にも同名経典があるので注意。| 題名 | 日本語題 | 日本語訳 |
|---|---|---|
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有偈篇 | 南伝12、『神々との対話』『悪魔との対話』(岩波文庫・中村元訳) |
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因縁篇 | 南伝13 |
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度篇 |
南伝14 |
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六処篇 | 南伝15-16上 |
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大篇 | 南伝16上-16下 |
経蔵−増支部経典| 題名 | 日本語題 | 日本語訳 |
|---|---|---|
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一集 | 南伝17 |
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二集 | 南伝17 |
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三集 | 南伝17 |
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四集 | 南伝18 |
  |
五集 | 南伝19 |
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六集 | 南伝20 |
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七集 | 南伝20 |
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八集 | 南伝21 |
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九集 | 南伝22上 |
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十集 | 南伝22上-22下 |
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十一集 | 南伝22下 |
経蔵−小部経典有名な経典が集中している所です。
| 題名 | 略号 | 日本語題 | 日本語訳 |
|---|---|---|---|
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小誦 | 南伝23 |
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法句、法句経 | 南伝23、『真理のことば』(岩波文庫・中村元訳) |
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自説 | 南伝23 |
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如是語 | 南伝23 |
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経集 | 南伝24、『ブッダのことば』(岩波文庫・中村元訳) |
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天宮事 | 南伝24 |
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餓鬼事 | 南伝25 |
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長老偈 | 国訳経12、南伝25、『仏弟子の告白』(岩波文庫・中村元訳) |
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長老尼偈 | 国訳経12、南伝25、『尼僧の告白』(岩波文庫・中村元訳) |
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本生、本生物語、本生譚 | 南伝28-39 |
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大義釈 | 南伝42-43 |
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小義釈 | 南伝44 |
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無碍解道 | 南伝40-41 |
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譬喩 | 南伝26-27 |
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仏種姓 | 南伝41 |
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所行蔵 | 国訳経13、南伝41 |
論蔵とは「法(教え)に関して」という意味で、教義に関する解説です。このため、律や経が(真偽のほどはともかく)ブッダの言葉あるいはブッダが定めたものということになっているのに対し、論は仏弟子の撰述ということになっています。
| 題名 | 略号 | 日本語題 | 日本語訳 |
|---|---|---|---|
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法集論 | 南伝45 |
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分別論 | 南伝46-47 |
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界説論 | 南伝47 |
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人施設論 | 南伝47 |
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論事 | 南伝57-58 |
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双論 | 南伝48-49 |
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, |
発趣論 | 南伝50-56 |
パーリ語三蔵には入っていませんが、重要・有名な文書で経典扱いされているものです。ここでは『南伝大蔵経』やVRIに入っているものを中心に掲載します(VRIではA
というツリーのところに入っています)。| 題名 | 略号 | 日本語題 | 日本語訳 |
|---|---|---|---|
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弥隣陀問経 | 国訳経12、南伝59、『ミリンダ王の問い』(平凡社東洋文庫・中村元訳) |
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導論 | |
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蔵釈 | |
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島史 | 南伝60 |
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大史 | 南伝60 |
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小史 | 南伝61 |
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清浄道論 | 南伝62-64 |
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一切善見律註序 | 南伝65 | |
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摂阿毘達磨義論 | 南伝65 | |
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阿育王刻文-法勅 | 南伝65 |