[ウルドゥー語/ヒンディー語ページトピックス]

不確定未来形


  1. 呼称
     当サイトでは「不確定未来形」という言い方で統一しますが、参考書によっては別の呼び方をしていることがありますので以下まとめてみました(参考書名は略記しました。詳しくは参考書・書店・リンク集をご覧下さい。以下はここで解説されている順番に記します)。
    参考書呼称
    urdu teach yourself(Matthew, Dalvi)Subjunctive mood
    基礎ウルドゥー語(鈴木)未来を表す形II
    ウルドゥー語文法の要点(鈴木)不確定未来形
    Plattsの文典Aorist
    CDエクスプレスヒンディー語(田中・町田)不確定未来形
    基礎ヒンディー語(古賀)叙想法不定未来形
    入門ヒンディー語(坂田)仮定法
    ヒンディー語研修テキスト(町田)不確定未来形
    hindi teach yourself(Snell)subjunctive
    Outline of Hindi Grammar(McGregor)subjunctive
    ウルドゥー語辞典(加賀谷)叙想法不定未来形
    ヒンディー語=日本語辞典(古賀・高橋)叙想法不定未来時制
    ヒンディー語小辞典(土井)不確定未来形
    Oxford Hindi-English Dic.(McGregor)subj. (= subjunctive)
    インド語四週間(木村)仮説法現在形
    インド文典(沢)不定時相
    ウルドゥー語入門(蒲生)不確定未来形
    ヒンディー語入門(土井)不確定時制

     英語で書かれた参考書では、ほぼsubjunctive(接続法)で統一されています。日本語で書かれた参考書ではおおむね「不確定未来」に統一されつつあるようですが、このところあいついで出版された辞典で「叙想法」という言い方が採用されているので、当分統一されることはないでしょう。
    蛇足(読み飛ばしてください)
    Plattsの文典のAoristというのはギリシア語の「不確定」という意味です。後述のように日本語の訳語である「不確定未来」に対応するということでいえば、あながち不当な術語ではないのでしょうが、古典ギリシア語やサンスクリットやパーリ語でアオリストというと「(不定)過去」つまり過去時制のうちの一つであり、しかも「過去のいつの時点で行われたのか不確定」という意味であって不確定の意味が全然違うので、まぎらわしい術語といえましょう。今後は使うべきではありません。
    一方でsubjunctive(接続法)というのは、英語やサンスクリットやパーリ語に存在しないのでわれわれにはなじみがうすいですが、ドイツ語やフランス語などヨーロッパの言語に広く存在する用法です。大雑把には、必ずしも事実はいえないような話し手の頭の中にのみ存在する事象を表現するに使います。このような表現は「〜と思う」「〜と仮定する」「〜と主張する」「〜と要求する」のように、「〜と」でくくられる従属節内で用いられることが多く、これが「接続法」というネーミングの由来です。が、たとえ主文中であっても、このように話し手の頭の中にのみ存在する事象であれば接続法を用います(〜と思う、が省略されていると考えてもよい)し、逆に従属節中であっても、しっかりした事実を表現する場合には接続法を用いません。だから接続法のキモ・本質は「頭の中のこと」ととらえてください。そういう意味合いが、ここで述べるウルドゥー語/ヒンディー語の不確定未来形に内容的に似ているので、subjuctiveと呼ぶのでしょう。しかしウルドゥー語/ヒンディー語では、別に従属節内でこれを用いるというようなキマリがありませんので、これも混乱を招きそうな術語だと思います。


  2. 語形変化
    1. 一般動詞
       語尾の表記は、語幹が母音で終わる場合(左)は、ヒンディー語では独立母音形、ウルドゥー語ではハムザをつけて書きますが、語幹が子音で終わる場合(右)は、ヒンディー語では母音記号形、ウルドゥー語ではハムザなしで書きます。発音的には違いはありません。
      母音で終わる語幹
      (食べる)
      子音で終わる語幹
      (起きる)
       単数複数  単数複数
      1人称 1人称
      2人称 2人称
      3人称 3人称

       上記の活用語尾を覚えるのは難しそうですが、実はの現在形変化と非常に似ているのです。の現在形変化の冒頭のを除いたうえで、という語尾のところだけにすれば、そのまま不確定未来形の活用語尾になってしまいます。並べてみましょう。
      不確定未来形の活用語尾 の現在形変化
       単数複数  単数複数
      1人称 1人称
      2人称 2人称
      3人称 3人称




    2.  の不確定未来形は不規則です。「一般動詞の不確定未来形でとなっている部分がになる」と覚えればいいでしょう。
       ただし1人称単数は、ウルドゥー語とヒンディー語で違います。ウルドゥー語ではをつけるわけで規則的なのですが、その結果として現在形とまったく同形となり区別できません。ヒンディー語ではという特別な形となります。
       また、ウルドゥー語では1・3人称複数形のが綴りでは1人称単数形と同形になってしまいます。
      (〜である・〜がある・〜になる・コピュラ動詞)
       単数複数
      1人称
      2人称
      3人称


    3. その他の不規則動詞
       は不規則です。
       もっとも「母音で終わるので…、…となるべきものが、…、…となる」というだけの話です。言い方を変えれば「が抜ける」「であるかのような活用をする」ということなので、そう身構える必要もありません。
       ただし結果として、2人称複数形は、命令形と同形になってしまうので、注意が必要です。
      (与える) (取る)
       単数複数  単数複数
      1人称 1人称
      2人称 2人称
      3人称 3人称

       また、(飲む)は、変化に際しての部分が短母音つまりとなり、まるでであるかのように変化します。ヒンディー語ではこの変化をちゃんと綴りでも書くのですが、ウルドゥー語ではそのままのように書くので、規則的変化となります。
      (与える)
       単数複数
      1人称
      2人称
      3人称



  3. 用法
     不確定未来形はかなりの部分が日本語の「う・よう」(だろ、しよう)に相当します。ですから訳す場合は、とりあえず「う・よう」と訳しておいて、文脈を見ながらもっと適訳をさがせばいいでしょう。
     むしろ作文・会話のほうが大変です。日本語の「う・よう」に相当する表現としては、不確定未来形だけでなく普通の未来形もあるわけで、どういうときに不確定未来形を用い、どういうときに普通の未来形を用いるのか、区別がやっかいです。
     不確定未来形の原則は、確信のない仮想です。主に以下のような場面で用います。
     なお、否定にはを用います。普通の未来形はなので注意してください。
    1. 〜してもいいですか?、〜しましょうか?
       主語が話者自身のときは、「〜してもいいですか」のような許可を求める言い方、または「〜しましょうか」のようにこちらの提案に対する相手の同意や指示を求める言い方になります。
      1.
      私は中に入ってもいいですか?
      2.
      私はこの本を持っていきましょうか?


    2. 〜しましょう
       相手に対して、勧誘するときに用います。
      3.
      喫茶店でお茶を飲みましょう。


    3. 〜されるように、〜してください
       相手に対して、丁寧に依頼・命令・要求するときに用います。
      4.
      私に手紙を書いてください。


    4. 仮定文の前半
       仮定文の前半で、「〜ならば」「〜としたら」という意味になります。ただし仮定文の前半ならば必ず不確定未来を用いなければならないというわけではなく、ふつうの未来形や現在形なども使います。
      5.
      もし彼が来ればわかるでしょう。






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