[補講 by まんどぅーか]
アオリスト
- 今後の演習、今後の補講
以上、動詞の現在形、正確にいえば現在語幹関係の変化についてやりました。
今後はそれ以外の語幹に関するものをやっていきます。
それにしても困ったのは、本編の演習はここからはもうないんですね。
これは決して私が怠慢をしているのではなく、
本編のネタ本『実習梵語学』がそうなっているのです。
現在語幹をやったらあとは演習がなく、
文法を全部終えた後にいきなり長文読解になっちゃうんですね。
実をいうと、ここから先の形の出現頻度はぐっと減ってしまいます。
たまにしか出てこないんですね。
だから演習問題が作りにくいのかもしれません。
しかし、まったく演習問題がないのも困ったものです。
そのうちいろいろなところから探してきて作ってみようとも思っておりますが、
さしあたりは、ゴンダ文法の練習題(会員専用)をやってみてください。
具体的には16-20ですね。カリキュラムはこのページに書いてあります。
それから、ここまでくらいついてくださった方は、
もう私のこんな補講を読まなくても、本編の説明だけでわかってしまうのではないかと思います。
ですから今後の補講は、本編を読めばわかるようなことは省き、
現実の対処法を中心とした実践的な話にしぼっていきます。



語根と

語根
本編の説明のとおりです。
現在語幹を作るときには関係がありませんでしたが、
他の語幹を作るときにちょくちょく問題になるのがこの話です。
語幹を作るときには多くは語根に語尾をつけるわけですが、
その語尾をつけるときに、そのままつけていい語根と、
母音
をはさんでつけなくてはならない語根とがあるのです。
前者をアニット語根、後者をセット語根と呼んでいます。
しかし、こんな重要なことならば辞書に「この語根はアニットだよ」などと書いてあるのかと思いきや、意外なことに明記されておりません。
モニエルの辞書みたいに語幹をずらずら並べていれば、
それを見て判断がつきますが、
そうでない辞書だと判断がつかないんですね。
しかも、実はアニットとセットの中間段階、
「
を入れてもいいし入れなくてもいい」というあやふやなものもあったりします。
文法書によっては、これをヴェット語根(

語根)と呼んでいたりします。
また、アオリストのときは絶対に入れるが、不定詞をつくるときにはどっちもアリ、
などというやつもあったりします。
結局のところ、この話はあまり気にしなくていいのではないか、というのが私の考えです。
文章読解のときは他人が文法を守って書いてくれた文章を読むだけなのですから、
「
が入っている場合があるぞ」程度に考えておけばいいのではないでしょうか。
何かの機会に作文をしなければならなくなったら、
当サイトの動詞語幹集(→変化表)なり何なりを見て判断してください。
- アオリスト
さて、ここでとりあげるのは「アオリスト」という形です。
なにやら怪しげなひびきを持つ言葉ですが、これはギリシア語で、
「限定されない」という意味のことばです。
ヨーロッパの言語では、古典ギリシア語にはあるのにラテン語では消滅してしまったので、
ヨーロッパ人はギリシア語の用語で呼ぶのです。
その習慣がサンスクリットにも持ち込まれているわけですね。
たまに「不定過去」と呼ばれることがあります。
本編のネタ本『実習梵語学』でも不定過去と呼んでいます。
ちなみに、今まで出てきた、現在語幹からつくる過去、インパーフェクトは、
たまに「未完了過去」と訳されたりします。
ギリシア語の文法書ではそのほうが多いようですね。
もともとは過去(インパーフェクト)や次にやる完了と違って、
「その日」の出来事を表すという特徴があったらしいですが、
古典サンスクリットでは完全に過去や完了と区別がなくなっているので、
「〜た」と訳しておけば十分です。
頻度的にもたまにしか出てきません。
サンスクリットで一番多く使われる過去表現は、なんといっても過去分詞です。
- アオリスト語幹の作り方と、種類の見分け方
アオリストの作り方はさまざまなあるのですが、
まずは最初に大原則をしっかり覚えてください。それは、
で始まる
- 語尾は過去(インパーフェクト)と同じ
- 語幹は違う(アオリスト語幹)
ということです。
つまりアオリストは、最初と最後は過去と同じで、途中が違うだけ、というわけです。
だから現実的には、「過去形みたいなのに、どうも途中が違うぞ」というとき、
「アオリストかな」と思って調べると、たいていあたります。
アオリスト語幹の作り方は本編にあるとおりなので詳しくはそれを読んでください。
要点だけをまとめると、
- 語根アオリスト……語根そのもの
アオリスト……語根+
- 重複アオリスト……現在語幹の


をとりさって重複をする
アオリスト……語根+

アオリスト……語根+



アオリスト……語根+



アオリスト……語根+
。ただし実際には内連声によって必ず


となる。
ということになります。
もちろん、この7つのどれでも好きな方法を使っていいわけではありません。
語根ごとに、この語根はこういう作り方をする、というのが決まっているわけです。
現在語幹の作り方が10種類あっても、どれでも好きな方法を使えるわけでなく、
それぞれ決まっているのと同じです。
しかし困ったことには、
辞書には現在語幹の作り方の「第×類」というのは必ず書かれていますが、
アオリスト語幹が上記のうちのどの作り方になるのかというのが、
必ずしも明確になっていないということです。
少なくとも上記のような用語を記している辞書は一つもありません。
モニエルの辞書のように各種語幹を詳細に載せている辞書の場合は、
アオリスト語幹の形を見て、「ははん、この型だな」と判断できるというわけです。
では、実際に判断してみましょう。
辞書や文法書、
当サイトの変化表の動詞語幹集に載っている語幹は、
原則として3人称単数形です。
上のそれぞれについて、3人称単数形がどのようになるか、見てみましょう。
- 語根アオリスト……



(→

)、


(→

)
アオリスト……




(→


能)、





(→


反)
- 重複アオリスト……








(→


能)、








(→


反)
アオリスト……




(→

能)、




(→

反)

アオリスト……




(→

能)、






(→

反)


アオリスト……




(→

)、




(→

)

アオリスト……





(→


能)、






(→


反)
すべて、能動態は



、反射態は




という形になっています。
反射態のほうは一部の語尾が
となっていますが、
それはその直前の子音
の影響です。
それらをとりさった形に着目しましょう。
わかりやすいところからいくと、
1は語根そのもの、
2は
で終わっている、
3は重複がある、
7は


となっている、というところで見分けられそうです。
難問は4-6です。
まず反射態からいきます。
6には反射態がないので4と5の違いです。
4は前が
、5は前が

というところで何とかなるような気がしますが、
実は4の
も、語根末の
とサンディした結果そうなっているのであって、
本質的には
です。
しかも


(打つ)→





→




のような複雑なサンディを起こし、
結果として肝心の
がとれちゃったりすることがままあります。
これは「
が入っていれば5、なければ4」ぐらいしか判断基準はありません。
さらに困難を極めるのが能動態です。
まず、5の末尾は



となっており、
や
が入っていません。
このことから5はわかりそうです。
しかし4と6は、いずれも




となっています。
4は


ですが、それはたまたまその前の母音の影響でそうなっているだけで、
本質的には


です。
とすると困ったことに、まったく区別がつかないんですね。
これは各種の辞書や参考書が、
3人称単数形を掲げているのが問題なのです。
4から6は3人称単数形で、
かんじんの
、
、

という標識がとれてしまうのです。
5はまだ「


がない」という消極的根拠でできますが、
4と6は同じになってしまうので万策つきてしまいます。
実は本編にあるように、6(


アオリスト)は、
語根が
などで終わるごく一部の動詞に限られているので、
それを全部覚えておいて、残りは4、とするしかありません。
まとめると、
- 語根アオリスト……







を除いた形が語根そのもの
アオリスト……






を除いた形が語根+
- 重複アオリスト……重複がある

アオリスト……






を除いた形が

で終わる


アオリスト……能動態のみ。属する動詞を覚えておく
- その他・反射態……
が入っていれば
アオリスト、なければ
アオリスト
- 能動態……



がなければ
アオリスト、あれば
アオリスト
- 見分ける必要はないじゃないか
こんなふうになかなか見分けるのは大変なのですが、
われわれのとりあえずの目標は読解であって、
文法研究ではありません。
とりあえずは、アオリストであることがわかればいいのです。
上にも書いたように、
アオリストは過去(インパーフェクト)と語尾が同じです。
だから語頭の
と語尾を抜かした形が、
どうも現在語幹と違うようであれば、それはアオリストです。
あとは過去と語尾が同じなのですから、意味はわかるはずです。
それでいいじゃありませんか。
気になるようであれば、ゆっくり確かめればいいのです。
- 祈願法は受動態のところで…
めったに出てきませんが、
祈願法という独特な形があります。
もともとアオリスト組織に属したので伝統的にここで説明されていますが、
作りは受動態に似ているので、受動態と一緒に説明したほうがいいと思います。
Bucknellの『Sanskrit Manual』の動詞語幹表でも、受動態と関連させています。
そこで受動態のところで再び説明することにします。