[補講 by まんどぅーか]

現在−第3、5、7、8、9類変化


  1. 「重複」について
     残りの第3、5、7、8、9類のうち、 一番やっかいなのが第3類です。 これさえ乗り切れば、あとは簡単です。
     第3類のとっつきにくい点は、 「重複」という少々わかりにくい方法で現在語幹を作ることです。 が、この重複という方法は、 アオリスト、完了、意欲動詞、強意動詞と、 今後ここ以外にもいろんなところで出てきます。 実は第1類変化(特殊)で出てきた19.番目のやつ、 (1)(嗅ぐ)→(1)(飲む)→(1)(立つ)→ というのもそうだったんですよ。 そんなわけで、これを機会に「重複」という方法をしっかりおさえておきましょう。

     重複というのは、文字通り、同じ音節を2回言う方法です。 文法書によっては「重字」(辻文法)、 「長字」(本編のネタ本『実習梵語学』)などといったりしますが、 「重複」というのが一番わかりやすそうなのでこれでいきます。 ちなみに英語では、reduplicationといいます。 ついでながら、古典ギリシア語にもこういう現象があるらしく、 古典ギリシア語の入門書では「畳音」と呼んでいるようです。
     さてこの「重複」、(こんな例は本当はありません)のように、 まったく同じに音節を繰り返してくれればわかりやすいのですが、 そうでないのがわかりにくいところです。 (与える)→ぐらいの違いなら、まだ納得がいくかもしれませんが、 上であげたの例など、どうしてこれが重複なの? という感じでしょう。 実は重複には細かい規則があるのです。 その規則とは本編で書いてあるとおりで、 非常にわかりやすい説明なので私が繰り返すこともないのですが、 もう一度こちらでも説明しましょう。 なお、わかりやすくするため、以下はすべて架空の例でやっていきます。
    1. まずそもそも、重複は前からやります。 つまり語根Aに対する重複音節がaである場合、Aaではなく、aAのように前につけるのです。 たとえば(架空の例)を重複させるときは、 をつけることになりますが、 ではなく、のように前につけるのです。
    2. 次に、母音はまず同じになりません。何かしら変化します。 どういうふうに変化するかは、それぞれの場合によって異なります。 つまり、現在第3類のとき、アオリストのとき、完了のとき……、というふうに、 それぞれ異なるというわけで、統一した法則はありません。 ですからそれぞれのところで確認してください(ただ、どれも例外は多いですが)。 以下はすべて架空の例でやるので、 のように、母音をで統一しますが、 実際にはこんなことはないと思ってください。
    3. 有気音は対応する無気音、つまりナシの音にします。 つまり…というわけです。
    4. しかし喉音つまり行の音は、その下の行の音にします。 つまりというわけです。 3.とあわせると、となります。
    5. になります。です。
    6. 子音が連続しているときは、最初の子音だけにします。 。 3.とあわせると、などとなりますし、 4.とあわせると、などとなります。
    7. しかし、歯擦音(系統の音)+無声子音という組み合わせの二重子音は例外で、 後の音を使います。 。 3.とあわせると、。 4.とあわせると、。 なお、これは現実の例ですが、 (立つ)→はわかりますか? をつけたわけですが、 その母音の副作用でとなり、 さらに連動してとなったのです。こういう内連声にも注意しましょう。
     重複の一般法則は以上のとおりです。 あとは個別の規則がそれぞれいろいろあります。

  2. 第3類の変化
     第3類は、上に述べた「重複」を用いて現在語幹を作ります。 語根の母音が長母音の場合は、 頭にくっつける重複音節ではその母音を短母音にしたものになります。 それから語根の母音がの場合は、重複音節ではになります。 実際の例は本編の140.〜144.にいろいろ書いてあるので見てください。 140.が原則、141.〜144.が例外です。けっこう例外があるものですね。
     もちろん強語幹と弱語幹とがあります。 強語幹の場合には語根母音をグナにします。
     それから、重複の法則をはさんで上の138.に書いてあるのでわかりにくいですが、 第3類の人称語尾は他とちょっと違います。 現在能動態3人称複数が、命令法能動態3人称複数がで、 それぞれ他の類では単数で使われる語尾になるのが要注意です。 過去能動態3人称複数もというかわった語尾になり、 ここではさらに、もし語幹の母音が弱音階の場合には、グナにしなければなりません。
     実はこの第3類特有の語尾は、第2類の一部の動詞にも使われます。 その話はわずらわしいのでここでは省きます。本編138.を見てください。  具体的な変化の詳細は、本編に戻ってそれぞれの語のリンクをクリックしてください。

  3. 第5類
     あとは大急ぎで、注意すべき点だけをおさえていきます。
     第5類は語根にをつけて強語幹、 をつけて弱語幹を作ります。 あとは第2類と同じ語尾をつけていきます。 注意すべきことといえば、語根にが含まれている場合、 になることがあるぐらいでしょうか。
     それから本編にもあるとおり、母音、で始まる語尾の前では、 弱語幹のが省略されることがあります。

  4. 第8類
     順番を入れ替えて第8類を先にみます。
     第5類は語根にをつけて強語幹、 をつけて弱語幹を作ります。 あとは第2類と同じ語尾をつけていきます。
     ところで第8類の語根は、1つの例外を除いて、 必ずで終わります。 ということは少なくとも現在語幹に関する限り、 実質的に第5類と同じになってしまいます。 実際、母音、で始まる語尾の前では、 弱語幹のが省略されることまで同じです。
     で終わらない唯一の動詞は(する、作る)ですが、 強語幹が、弱語幹がですから、 語幹の作り方も例外的です。 しかし「する、作る」は、なにぶんそういう意味ですから、 非常に頻出します。

  5. 第9類
     語根にを加えて強語幹を作ります。 弱語幹は、子音語尾では、母音語尾ではを加えます。
     命令法能動態単数2人称は、通常なら弱語幹にをつけるところですが、 語根が子音で終わっているときはというずいぶん違う語尾をつけます。
     語根に鼻音が含まれているときは、鼻音が重複するのをさけるためか、 その鼻音をとりさってからだのだのだのをつけます。
     あとは本編の注意事項や変化表へのリンクを見て納得してください。

  6. 第7類
     第7類を後回しにしたのは、ちょっとやっかいな問題をはらむからです。
     第7類は語根にを加えて強語幹を、を加えて弱語幹を作ります。 「なんだ、それなら第9類と似ているじゃないか」と思ってはいけません。 その加える位置が問題です。 語根末じゃないんです。 第7類の語根は必ず(鼻音を除く)子音で終わるのですが、 その子音の直前に加えるんですね。 だから(破る)なら、となるわけです。
     弱語幹はを加えると書きましたが、もう想像がつくでしょう。 その想像のとおりです。 語末の子音によってこれが変わるのですね。理論的には……
    • 語根末子音がだったら……
    • 語根末子音がだったら……
    • 語根末子音がだったら……
    • 語根末子音がだったら……
    • 語根末子音がだったら……
    • 語根末子音がその他であれば……
    となるはずです。 もっとも当サイトの動詞語幹集で、7類動詞の語根末子音を調べてみると、 しかありませんから、 あんまりいろんな場合を設定しなくてもよさそうです。
     しかしそれは甘い。 今度は子音語尾をつけるところで、子音と子音の衝突による劇的な内連声が起こります。 そしてその結果によってさらにこの挿入鼻音まで変化してしまうんですね。 たとえばの変化を見てください(変化表)。 語根がで終わっているので弱語幹に挿入される鼻音はになっていますが、 で始まる語尾の前ではに、 で始まる語尾の前ではに変化しています。 その影響で鼻音になってしまうのです。 こういう劇的な内連声に要注意というわけです。

  7. まとめ
     以上、駆け足で現在語幹関係の変化をまとめました。
     しかし実は、それぞれの類にいろいろな例外があるので、 法則を一生懸命覚えてもあまり役に立ちません。 まずは文章にあたって、 出てきたものを覚えていくのがよいようです。 最初は語彙検索CGIを使ってラクをしてもかまいません。 私もBucknellの『Sanskrit Manual』を愛用しました(語幹から語根をひくことができる)。 そうやって見つけた語根と語幹をペアにして覚えていけばいいのです。