[補講 by まんどぅーか]

名詞・形容詞(4)


  1. 格変化語尾の一般形
     母音で終わる名詞の変化がいろいろ出てきてみなさんすっかりお疲れでしょうが、 これからまだ、子音で終わる名詞の変化があるんです。 まだまだ名詞が半分終わっただけだというわけです。
     と書くとみなさんゲンナリなさったでしょうが、 実は子音で終わる名詞の変化はそう難しくありません。 前講の補講で書いたように、子音で終わる名詞の変化は、 格変化語尾の一般形を接続させるだけなので、非常に規則的なのです。
     もうリンクをクリックして表示させましたか? なに、面倒? じゃここに転載しましょう。
    男性&女性中性
      

     黄色と青色は次の「強語幹、中語幹、弱語幹」の話で出てきますので今は無視してください。
     このように、男性と女性は同じになります。 中性も主・対・呼格が違うだけで、あとは同じです。
     どうでしょう? こうしてみると、意外にシンプルじゃないですか?
     ただ、やはりサンスクリットのことです。ただではすみません。 例によってサンディの法則がからんできますので要注意です。 順次説明しましょう。
    1. まず男女性主格と呼格に出てくる。 子音で終わる名詞に付けると、語末に子音が2つ連続してしまいます。 以前やったように、絶対語末の規則というのがあり、 語末には子音が連続できず、最初の子音だけ残してあとは全部なくなってしまいます。 そこで、せっかくつけたも、あわれ、すぐに消えてしまうというわけです。
       「なんだ、じゃ最初からって書けばいいじゃないか」と思われるかもしれませんが、 実は、まったく何も付かないというのとはやっぱり違うのです。 で終わる名詞の変化の話でからんできます。
    2. 今の「幻の」をつけるものもそうですし、 最初から語尾がない中性主・呼・対格もそうですが、 何もつけないからといってそのままにしてはいけません。 子音の中には絶対語末に来られないものがありますので、 それらは絶対語末の規則に従って変化させます。 絶対語末の規則を忘れたという人は、 こちらの最初のほうを見てください。
    3. 子音で始まる語尾が4種類あります。 です。 これら4種類を接続させる場合は、 語幹末の子音をいったん絶対語末の形にしたうえで、 外連声規則を適用させて接続させます。 つまりこれら4つの語尾は、語尾でありながら、 まるで別単語のようなふるまいをするというわけです。 そんなわけでこれら4つの語尾のことを、語尾といいます。 パダというのはいろいろな意味がありますが、 ここでは「単語」という意味。つまり「単語みたいな語尾」というわけです。
    4. 中性複数の主・呼・対格では、語幹末子音の前に鼻音を挿入します。 ただし語幹が鼻音(実質的にしかないですが)のときには鼻音を挿入しません。
       上の表では便宜的にと書きましたが、とは限りません。 挿入される鼻音は語幹末子音に対応させたものになります。つまり、
      • ……
      • ……
      • ……
      • ……
      • ……
      • その他……


  2. 子音で終わる名詞の変化(単一語幹)
     そんなわけで、子音で終わる名詞の変化は、語尾がすべて共通ですので、 いっしょくたにまとめることができます。よって説明はここでおしまいです。
     えっ? サンディの法則をまだ覚えていないから、ここまでの説明じゃまだわからないって? 大丈夫。 当サイトの変化表は、 一つ一つの例をわけて書いてあります。 変化表の中の 「●名詞」の「子音で終わる名詞・形容詞(一般)」をクリックしてみてください。 いろいろな子音で終わる変化表がでてきたでしょう? 詳しくは一つ一つ見てください。
    で終わる名詞の中には、さらに細かく場合わけが必要なものがありますが、 語彙集からのリンクでは、 区別を明確にしています。
     それから、変化表の「名詞・形容詞」の最初のやつと、 「名詞・形容詞」の最初のやつ、 「名詞・形容詞」の上の5つ ()も いままでの話で説明ができます。 ここまでは、語尾の部分だけが変化して、語幹は一切変化しません。 「単一語幹名詞」というわけです。
     で終わる名詞の変化(→変化表)は、子音で始まる語尾、いわゆるパダ語尾(上で説明しましたよ)のところでは、 語幹の母音が長母音化します。 実はこれは、そういう内連声規則があるのです。 本編では37に書いてあります。 それを考慮すれば例外にはならないというわけです。
     えっ、この表での変化は、パダ語尾だけじゃなく、 語尾のつかない主・呼格でも長母音化してるぞって? いいところに気づきましたね。 そうでしょう? だからそこは、まったく語尾が付いてないんじゃなくて、 実は「幻の」がついてるんですよ。 そのは語幹の母音が長母音化した後に消滅しているわけです。 のほうは最初から長母音なんでわかりませんが、やはり同様の変化をします。 もっとも中性名詞の主・呼・対格は、本当に何も語尾がないので、 長母音化するのはパダ語尾のところだけです。
     (→変化表)、 (→変化表)、 (→変化表)、 (→変化表)の変化は、 ほとんど原則どおりなのですが、 男性・女性単数主格と、中性複数主・呼・対格で、語幹母音が長母音化するのが例外になります。 なお、何でを別立てしたかというのは、 だけは別として、他はサンディの問題があり、 母音語尾(と複数処格)でに変わるという現象が起きるからです。

  3. 強語幹、中語幹、弱語幹
     で、話がここまでで終わればラクなのですが、 複雑怪奇なサンスクリットのこと、ただではすみません。 子音で終わる名詞の中には、語尾ばかりか、語幹部分まで変化するものがあるのです。 とはいえ語幹の変化はそう激しくはありません。 せいぜい2〜3通りに変化するだけです。
     たとえば、(王)の変化は変化表のとおりですが、見てくれればわかるように、 という3つの語幹が登場しています。 (自己)(→変化表)では、 という2つの語幹が登場しています。
     語幹が2種類あるとき、左側に書いたものを強語幹、右側を弱語幹と呼びます。 3語幹あるときは、左から順に、強語幹、中語幹、弱語幹と呼びます。 ここであげた例では、強語幹では語幹の母音が長母音になり、弱語幹では短母音になったり母音がなくなったりしていますが、 他の例では、 (大きい)(→変化表)のように、 強語幹ではのように鼻音が入り、 弱語幹ではのように鼻音が落ちる、というパターンもあります。
     どうしてそういう名前がついたかというと、実はこれは、もともとアクセントの移動にからむものだったのです。 強語幹は語幹部分にアクセントがあったので、そこを強く読む結果として、 母音が長くなったり鼻音が入ったりする、 弱語幹は語尾部分にアクセントがあったので、そこを弱く読む結果として、 母音が短くなったり鼻音が落ちたりする、というわけです。
     なお、このアクセントの話は、サンスクリットの前身であるヴェーダ語の時代の話です。 サンスクリットのアクセントの規則はなきに等しく、 みんなめいめい勝手に判断して読んでいます。 だから、強語幹だからそこにアクセントをつけて読まねばならない、ということは、 とりあえず考える必要はありません。
     この、母音が長くなったり短くなったりする、というところで登場するのが、 ちゃんと覚えていますか? あの、グナとヴリッディの話です。 忘れちゃった人は前の音論のところに戻ってください。戻るのが面倒くさければ、ここに再掲しましょうか。
    弱音階  
    標準階(グナ)
    長音階(ヴリッディ)  
     この表でいえば、強語幹になると母音は下のほうの段になり、 弱語幹になると母音は上のほうの段になる、という変化をするわけです。 辞書ではおおむね、弱語幹や中語幹の形で載せていますから、 「ないぞ」と思ったら、ちょっと語幹の母音を上下にずらせてみたり、 鼻音を抜き差しすればいいというわけです。 この表の大切さが少しわかりましたか?

     どこで強語幹が出てきてどこで弱語幹が出てくるかというのは、 この補講の上のほう、「格変化語尾の一般形」のところを見てください。 黄色いところで強語幹、水色のところで中語幹が使われます。 ちょこちょをこ例外があるので、最終的にはそれぞれのタイプの変化表で確認してください。
     強語幹についてはおおむね、「男性と女性は主・呼・対格が強語幹。ただし複数対格を除く」 「中性は複数の主・呼・対格」と覚えておけばいいでしょう。 ただし、単数呼格はけっこう弱語幹になることもあります。
     中語幹はよく見ると、いわゆる「パダ語尾」(子音で始まる語尾)のところですね。 あとは中性単数の主・呼・対格、と覚えておけばいいでしょう。 つまり、子音で始まるパダ語尾をつけるのに、語幹の母音がなかったりすると、 極端な子音連続になって読みにくいから、短い母音をちょこっと入れる、それが中語幹というわけです。
     なお、形容詞の場合、多語幹になるのは男性と中性です。 女性形は弱語幹または中語幹にがついて、 多音節女性名詞型の変化になるので、多語幹になりません。

  4. 続きは次の補講で
     うーん。まだまだ本編「名詞・形容詞(4)」の話の半分も補講していませんが、 ここまででいろんな話が出てきてしまったので、いったんお開きにしましょう。 もう補講なんかいいやと思ったら、さっさと次の演習をやっちゃってください。 多語幹の名詞の変化で単語が見つからなかったら、 要は母音を変えてみたり鼻音を抜き差しすりゃ見つかるわけです。
     まだ自信がないのなら、次の補講を見てから、演習をやってください。