受動動詞、使役動詞
- 動詞から派生した名詞、形容詞、副詞
準動詞まで来たところで動詞の変化は一応終わったことになりますが、
パーリ語の動詞は実はまだまだ数倍の変化をするのです。
というのは、パーリ語では一つの動詞から受動の意味を持たせた別の動詞を派生させたり、
使役の意味を持たせた別の動詞を派生させることができるのです。
このような派生動詞には、
- 受動動詞……「〜される」という受身の意味を持った動詞
- 使役動詞……「〜させる」という使役の意味を持った動詞
- 意欲動詞……「〜したい」という意味をあらわす動詞
- 強意動詞……「しきりに〜する」「激しく〜する」という意味を持った動詞
があります。
後2つはほとんど出てこないので割愛し、
ここでは受動動詞と使役動詞について説明します。
派生動詞は独立した動詞なので、
理論的にはいままで述べた現在、アオリスト、未来、準動詞などの変化をすべてすることができます。
また、やろうと思えば「使役の使役」「使役の受動」など、組み合わせることだって可能です。
実際「使役の受動」は時々出てきます。
よく出てくる派生動詞は辞書などでは独立した見出し語になっていることが多いですが、
あまり出てこないもの、臨時のものなどは全文検索をしないと出てこないかもしれませんし、
そもそも載ってないかもしれません。
が、作り方を覚えておけば、
未知のものでも「たぶんこれの使役だな」のように推測がつくので、
以下、作り方も交えて説明します。
- 受動動詞
英語などにならって「受動態」などということがありますが、
パーリ語では受動動詞はれっきとした独立した派生動詞です。
受動動詞は原則として動詞の語根に

、


、


などをつけ、
あとはそれぞれの形の語尾をつけます。
現在単数3人称なら



のようになるわけです。
例によって不規則なものがいろいろあるので、詳細は語彙集を見てください。
pass. という略号で書かれています。
受動態では反射態が使われる頻度が多少高くなりますが、
能動態も普通に使われます。
前回やったように、
受動動詞から作る現在分詞は現在受動分詞と呼ばれます。
普通は



、


をつけます。
これは本来は反射態の現在分詞の語尾です。
受身文では過去受動分詞、未来受動分詞を使った文と同様に、
動作の行為者を具格、意味上の目的語を主格にします。
パーリ語では受動動詞を含めて受身的な文が非常に多く、
わずらわしいので、(初等文法の練習は別として)受身でない形で訳すのが普通です。























(仏陀によって教えが示された→仏陀は教えを示した)
また、形は受動でも日本語に訳すとただの自動詞になってしまうこともあります。
- 使役動詞
使役動詞は原則として動詞の語根に


、
、




、

、



、


などをつけてから、それぞれの形の語尾をつけます。





→




のように、
語根の母音が
などに変化することが多いです。
例によって不規則なものがいろいろあるので、詳細は語彙集を見てください。
caus. cs. などという略号で書かれています。
使役文で、使役の相手(誰にさせるのか)は対格にするのがふつうですが、
具格になることもままあります。
形は使役でも、日本語の感覚ではただの他動詞だということはけっこうあります。
よく言われることですが、
インドの言語では使役を厳密に使うものが多く、
たとえば現代のウルドゥー語/ヒンディー語では
「彼はかぜをひいたので病院に行って注射を打った」というときは、
自分で注射器を持って自分の腕にさしたのでないからには、
必ず「打たせた」といわねばなりません。
パーリ語でも同様に、本当に自分がした動作でないものは原則として使役動詞を使いますので、
使役動詞の出現頻度はけっこう高いです。
- 使役の受動
こう書くと難しそうですが、
日本語でも「〜させられた」のような表現はよく言います。
パーリ語ではまず使役にしてから受動にします。
たとえば




(言う)
→使




(言わせる)
→使受






(言わせられる)のようにします。
サンスクリットとの対照
-
サンスクリットの受動動詞は反射態しかありませんので、
受動動詞を派生動詞扱いせず、
能動態、反射態、受動態のような3本柱構造で説明することもあります。
しかしパーリ語の受動動詞は能動態も反射態も使われるので、
サンスクリットにくらべてより派生動詞らしくなっています。