準動詞


  1. 動詞から派生した名詞、形容詞、副詞
     以上でざっと動詞の変化を一通り見たのですが、 これだけでは十分ではありません。 動詞は単に本来の動詞としての機能のみで用いられるのではなく、 さまざまな他の品詞の語に派生させて用いられます。 これらを準動詞といいます。 準動詞なんて合いの子は重要ではないと思ってはいけません。 使用頻度も役割の重要性も、本来の動詞に勝るとも劣りません。
     以下述べるように、不規則な作り方をするものが多いので、 一つ一つ覚える必要があります。 もっとも読解をするだけなら「これはどういう準動詞か」「もとの動詞は何か」さえわかればいいので、 場数を経るうちに、未知の形に出くわしてもだいたい推測がつくようになります。 いくつかは語彙集で見出しになっているものもありますが、 動詞の説明文中にしか出てこない形もあるので、 語彙集の全文検索機能を使って探してください。



  2. 分詞
     動詞から派生した形容詞のことを分詞(particle)といいます。 パーリ語では形容詞と名詞に本質的な区別がないので、名詞としても用いられます。
     分詞には「現在」「過去」「未来」×「能動」「受動」の6種類があります。 それぞれ説明します。
    1. 現在能動分詞……単に現在分詞とも言います。 「〜している」「〜しつつある」という形容詞を作ります。 形容詞ですから名詞を修飾することもありますし、 単独で「〜しているもの(人)」という名詞として用いられることもありますが、 述語として用いられることも多く、 特に、後述の連続体と同様に、 「〜して…して−した」というときの途中の「〜して…して」という、 いわば従属節の部分に使われることが多いです。 もちろん従属節は単に「〜して」だけでなく「〜ならば」「〜するとしても」などさまざまな意味になりえます。
       このようにさまざまな意味になる可能性があるので、 まずは「〜しつつある」と訳しておいて、 文脈に応じて適訳を考えるようにするといいでしょう。
       なお、日本語の問題として、 「〜している」というのは必ずしも現在の意味になりません。 「料理はもうできている」というのは「出来上がった」という完了の意味になってしまいます。 そこであえて最初は「〜しつつある」と訳した上で、 「〜している」と訳していいかどうかを考えるといいでしょう。  作り方は、現在形の語幹部分(を抜かした形)に、 をつけます。 後の2つは本来反射態ですが、 特に区別なく用いられます。 変化の仕方は、型、その他は型形容詞の変化です。
    2. 現在受動分詞…… 次回扱う受動動詞の現在分詞です。 もちろん「〜されつつ」という意味になりますが、 その他は上の現在(能動)分詞と同じです。 作り方は受動動詞の現在語幹にまたはをつけます。
    3. 過去能動分詞…… 「〜した」「〜してしまった」という意味を表します。 あまり出てきません。 作り方は、次に出てくる過去受動分詞にをつけます。
    4. 過去受動分詞…… 単に過去分詞とも言います。 過去「受動」分詞ですから「〜された」という意味になるわけですが、 自動詞から作られた過去受動分詞は単に「〜した」という意味になります。
       過去受動分詞は非常に多く出てきます。 もちろん修飾語や単独の名詞としての使い方もできますが、 圧倒的に多いのが動詞の過去形の代用として述語的に用いる方法です。 頻度的にはアオリストとどっこい、いや、アオリストより多いかもしれません。 注意すべきなのは、あくまで受動ですから、 自動詞の場合はいいのですが、他動詞の場合は受身にしなければなりません。 つまり「世尊は法を説いた」は、 「法は世尊によって説かれた」のように表現しなければなりません。
       作り方は、動詞の語根に直接、 をつけます。 不規則なものも多いので、一つ一つ覚えるのが確実です。 どちらも型形容詞変化をします。
    5. 未来能動分詞…… 「〜するだろう」という意味を表します。 あまり出てきません。 「未来形から作る現在分詞」ですので、 作り方は未来形からなどを抜いて、などの現在分詞の語尾をつけます。
    6. 未来受動分詞…… 「〜されるべき」という意味を表すので、 義務分詞などと言ったりします。 また、英語ではgerundive(動詞的形容詞)といいますので、 動詞的形容詞ということもあります。
       これはかなり多く使われます。 他の分詞同様に、名詞としても、修飾的用法でも、述語的用法でも使われます。 受動ですから述語として用いる場合は、 (他動詞の場合)受身にしなければなりません。 つまり「世尊は法を説くべきだ」は、 「法は世尊によって説かれるべきだ」のように表現しなければなりません。
       作り方は動詞語根にそのまま、あるいはを介したうえで、 などをつけます。 主に最初の2つが多いでしょう。 不規則なもの、複数あるものも多いので、これも一つ一つ覚える必要があります。 もちろんすべて型形容詞変化をします。


  3. 連続体
     「〜して…して−した」というふうに動作が連続して行われる意味の文で、 「〜して」というところに用いられる形です。 英語ではgerundといいます。 上の未来受動分詞(義務分詞)のgerundiveと非常に紛らわしいので注意してください。 語彙集では連続体=ger. 未来受動分詞=grd. と記しています。 また、絶対詞(absolutive)とも言いますし、 変り種では「不変分詞」「連続分詞」などという言い方もあります。
     英語の用語gerundというのは英文法では「動名詞」ですが、 名詞的な用法はありません。 あくまで「〜して」「〜して後」という意味です。 上に述べたように現在分詞でもそういう意味になりますが、 現在分詞がどちらかといえば2つの動作が同時に行われていることを意味するのに対し、 連続体ははっきりと動作が終わっていることを意味します。 両者を共存させた例が演習9にあるので味わってみてください。
     作り方は、動詞語根にそのまま、あるいはをつけて、 をつけます。 不規則なものもあるのでこれも一つ一つ覚えるべきです。
     変化は一切しません。連続体を使った場合は、前後の主語が同じというのが大原則なので、 主語は繰り返しませんし、目的語が同じならそれも省略されることがあります。


  4. 不定詞
     「〜すること」という名詞的な意味、 「〜するために」という副詞的な意味に用いるのが主です。 また、(できる)、 (したい)など、不定詞とともに用いられる動詞もいくつかあります。 実は不定詞で一番多いのが、こういうイディオム的な使い方でしょう。
     作り方は、動詞の語根にをつけます。 これも不規則なものがままあります。 なお、複合語の前半に用いられる場合は、で終わるものもになります。


  5. 絶対節
     分詞を使った表現で非常によく出てくるのが、 従属節を主語+分詞という形で作り、 しかもどちらも処格にしてしまうというものです。 たとえば、
    • (木が倒れている)
    • (鳥たちは飛び去った)
    • (木が倒れたとき、鳥たちは飛び去った)
     英語の分詞構文のようなものであり、 「〜する時、〜ように、〜なので、〜ならば、〜としても」などの意味を表します。 いろいろな意味になるので、とりあえずは「〜て」と訳しておいて、 文脈を見て適訳を考えるようにするといいでしょう。
     普通は処格にするので「処格絶対節」といいますが、 属格でやる場合も時折(けっこう多い)あり、 「属格絶対節」といいます。
    • (彼が食事を食べ終わると、人々は水を持ってくる)
    もちろん処格や属格にするのは主語と分詞のみであり、 目的語などは対格のままです。上の例では(食事を)は対格です。



サンスクリットとの対照
  1. 上に述べたことは、サンスクリットとほぼ共通なので、 サンスクリットを知っている人には難しいことはありません。
  2. 連続体(サンスクリットでは絶対詞ということのほうが多いかもしれません)は、 サンスクリットの作り方は整然としており、 単独の動詞には、前綴りのある動詞にはですが、 パーリ語の場合は必ずしもそうではなく渾然としています。