願望法・命令法
- 願望法と命令法
パーリ語では話者の意志・希望を表す言い方が2つあり、
願望法(optative)、命令法(imparative)と呼ばれています。
動詞総論の回ですでに見たように、
どちらも現在形を基本にしてできているので、
もちろん不規則なものはあるにせよ、
原則として現在形の語尾をとりかえるだけでできてしまいます。
- 願望法の作り方
現在形(から
などを除いた形)に次のような語尾をつけます。
◎能動態 | 単 | 複 |
◎反射態 | 単 | 複 |
1人称 |
      
 
   ,        |
      
   
   ,      |
1人称 |
     
  |
       
     
      |
2人称 |
      
 
     |
      
   
    |
2人称 |
    |
        |
3人称 |
    
 
  ,  ,  |
     
  ,    ,   |
3人称 |
   
   ,    |
     |
不規則な願望法はいろいろありますが、
ここでは



(ある)と





(する)を示すにとどめます。




の願望法






の願望法
◎能動態 | 単 | 複 |
◎反射態 | 単 | 複 |
1人称 |
        
       
        |
        
        |
1人称 |
    
       
    |
         
           |
2人称 |
        
        |
        
        |
2人称 |
       |
           |
3人称 |
      
       
     
    
       |
       
       |
3人称 |
       
       |
        |
- 命令法の作り方
現在形(から
などを除いた形)に次のような語尾をつけます。
◎能動態 | 単 | 複 |
◎反射態 | 単 | 複 |
1人称 |
   |
   |
1人称 |
  |
     |
2人称 |

   |
   |
2人称 |
    |
    |
3人称 |
   |
    |
3人称 |
    |
     |
1人称のすべてと能動態2人称複数は、現在形とまったく同形なので、
文脈に応じて訳し分けることになります。
現在形と同様に、現在形が


型の動詞に
で始まる語尾をつけるときには、



などのように
が長母音化します。
現在形が


型の動詞では、複数3人称の
で始まる語尾をつけるときには、




のように
が短母音化します。
能動態単数2人称は、

を除いた形そのもの、
もしくは

をつけた形であり、


型に

をつけるときには


、


の両形があります。
- 願望法と命令法の用法
命令法は文字通り命令を表しますが、
英語などと違い、1人称も3人称も存在するのが特徴です。
もっとも命令法1人称は形の上では現在形とまったく同じなので、
「命令法には1人称は存在しない。
1人称現在形は、命令=話者の強い意志=をも表すのだ」とも言いえます。
命令法の3人称は、「彼は〜すべきだ、してほしい」という意味も表しますが、
実は「目の前の相手に2人称の命令はキツすぎるので、
3人称を使っている」だけかもしれません。
このような「敬語としての命令法3人称」はけっこう多く出てきます。
願望法は、話者の意志、願望、命令、許可、可能、仮定、未来、比喩など、
ともかく「現実化されていない動作」を広く表します。
なかなか訳しにくいのですが、
昔からよくある手は、
とりあえず機械的に「べし」と訳しておいて、それから文脈に応じて意訳する、
というものです。







(〜したらどうだろう、〜したい)のように、
必ず願望法とセットで用いる表現や、



(〜できるように)、

(〜するな)のように、願望法と一緒に用いられやすい表現もあります。
仮定文では願望法は前半(仮定部分)にも後半(結果部分)にも用います。
もっともパーリ語では英語などのように仮定文に用いる形が厳密に定められているわけではなく、
願望法、未来形、また現在形などが区別なく用いられています。
サンスクリットとの対照
-
サンスクリットの願望法、命令法と基本的には同じです。
現在語幹から作られる点も同じです。
もっともサンスクリットの命令法は、1人称も独特な形をしていますが、
パーリ語では現在形とまったく同一であり、
実質的には命令法1人称が消滅しているといえます。