文字と発音
- 文字
文字といっても前章で書いたようにパーリ語には固有の文字がないので、
以下、ローマ字のことを意味します
以下の(1)〜(41)の数字は、辞書の並び順を示しています。
ローマ字だからといってABC順ではないことに注意してください
(例外的にABC順に並んだ辞書もあるにはあるが、原則として下のような順に並んでいる)。
- 母音
(1) |
(2) |
(3) |
(4) |
(5) |
(6) |
(7) |
(8) |
、
、
は
、
、
より長く発音します。
日本人の感覚では、
、
、
こそが普通のア、イ、ウであり、
できるだけ早口で短く発音したのが
、
、
だと思うといいようです。
、
は横線がついていませんが原則として長音です。
しかし、



、


など、次に子音の重なりが来る場合には短く発音されます。
- (9)

ニッガヒータ(







。抑制音)と呼ばれ、日本語の「ン」に相当します。
日本語の「ン」は実はいつでもnなのではなく、
次にmやpの音が来るとmになるなど、次に来る音によって音が変わるのですが、
ニッガヒータも同様です。
ともかく難しいことを考えず、日本語の「ン」で発音すればいいのです。
- 子音
まずは子音字の順序を示します。この順序をしっかり覚えてください。
(10) |
(11) |
(12) |
(13) |
(14) |
(15) |
(16) |
(17) |
(18) |
(19) |
(20) |
(21) |
(22) |
(23) |
(24) |
(25) |
(26) |
(27) |
(28) |
(29) |
(30) |
(31) |
(32) |
(33) |
(34) |
(35) |
(36) |
(37) |
(38) |
(39) |
(40) |
(41) |
|
、
など2文字で書かれているものは
、
などとは一応別物の、1文字の子音だと思ってください。なお、辞書では
と
は同じ文字扱いするのが普通です。
ヨーロッパ諸語やアラビア語やヘブライ語のアルファベットの順序は特に音声学的な意味はありませんが、パーリ語の文字の順序は音声学的な意味に基づいて配列されています。この表の(10)〜(34)あたりを見るとそれを感じることでしょう。(35)以後は一見雑然としているようですが、実はタテヨコを組み替えれば、音声学的な意味がよくわかるように並べることができます。そのように並べなおしたうえで解説しましょう。
| 無声音 | 有声音 | 無声音 | 有声音 |
| 無気音 | 有気音 | 無気音 | 有気音 | 鼻音 | |
喉音 |
(10) |
(11) |
(12) |
(13) |
(14) |
|
|
|
(41) |
口蓋音 |
(15) |
(16) |
(17) |
(18) |
(19) |
(35) |
|
|
|
反舌音 |
(20) |
(21) |
(22) |
(23) |
(24) |
(36) |
(38) |
|
|
歯音 |
(25) |
(26) |
(27) |
(28) |
(29) |
(37) |
|
(40) |
|
唇音 |
(30) |
(31) |
(32) |
(33) |
(34) |
(39) |
|
|
|
がついた音は有気音といい、息を強く出して発音します。

や
を英語にひきずられて、サとかファと発音しないでください。
タハ、パハのようにハを別に発音する必要はなく、
強く息を出してタ、パといえばいいのですが、
結果的に日本人の耳にはタハ、パハのように聞こえる場合があります。
特に有声音の有気音はそのように聞こえることが多いです。
口蓋音はチャ、ジャ、ニャ、ヤの系統です。

を英語に引きずられてカやキャは発音しないでください。
反舌音(そりじたおん)は、巻き舌の
を発音する要領で、
タやダやナを発音します。
英語のtやdは、インド人にはこの反舌音に聞こえるようです。
概してインド人の巻き舌はものすごく強烈です。
は反舌音に分類されますが、
のように強烈な巻き舌ではありません。
とどう違うのか、私の耳には発音の違いがよくわかりません。
が変化してできた音のようです。「ハ」みたいに聞こえることもあります。
サンスクリットとの対照
- サンスクリットにあってパーリ語にない音は、
母音では
、
、
、
、
、
子音では
、
です。
また、サンスクリットのヴィサルガ(
)やアヌナーシカ(
)もありません。
逆に、サンスクリットになくてパーリ語にある音は、
子音の
です。
ローマ字では同じ
という文字で表しますが、
サンスクリットでは母音、パーリ語では子音であり、別の音です。
- アヌスヴァーラ(
)は、パーリ語ではニッガヒータと呼ばれます。
このように専門用語が違うことがけっこうあるので注意すべきです。
とはいえ多くの人はサンスクリットも勉強しているので、
ついついサンスクリットの用語で言ってしまう現状もあります。
と
は、サンスクリットでは必ず長音ですが、
パーリ語では重子音の前では短母音になります。
もっともこれは、実際に発音してみれば、
少なくとも日本人の口には自然に短母音になると思われるので、
あまり気にしないでいいかもしれません。
- サンスクリットでは、文字と発音を終えたあとに、
サンディ(音変化)の法則をけっこう時間をかけて勉強しなければなりませんが、
パーリ語ではその必要はありません。
パーリ語にも一応サンディはあるのですが、
思いついたようにたまにしか起こらないので、
まずは一通り文法の基礎項目を覚えるのが先というわけです。