アオリスト
- アオリストとは?
パーリ語で、過去を表す動詞の形のことを、アオリストといいます。
聞きなれない言葉ですが、これは古典ギリシア語の文法用語からきています。
古典ギリシア語では過去を表す形がさまざまありますが、
そのうち「限定されない過去」という意味を表す形です。
ラテン語にはこのような形がないのでギリシア語の文法用語がそのまま一般用語になってしまい、
パーリ語にもこの用語が流用されているというわけです。
パーリ語にはもともと「不定過去」「アオリスト」「完了」という3種類の過去がありましたが、不定過去とアオリストは渾然一体となってしまい、
完了はすたれてしまい、
今ではアオリストだけになってしまっています。
それなら単に過去と言えばいいような気がしますが、
長年の習慣でアオリストと呼んでいます。
- アオリストの作り方
アオリストは動詞の語根に以下に掲げるような語尾をつけて作ります。
現在形から
などを除いた形にではなく、
前回に書いた語根につけます
(まれには現在形につけるものもあります)。
では、動詞の語根を調べるにはどうするかというと……
実は辞書にものっていないので調べるのは大変です
(水野辞典で見出し語のあとに[ ]囲みで書いてあるのは、サンスクリットの形であって、
パーリ語の語根ではありません)。
それじゃ作れないじゃないかと思うかもしれませんが、
心配はいりません。
実は語根を知っただけでは作れないのです。
以下に示すようにアオリストの作り方には大雑把に3種類あるのですが、
どの動詞がどのやり方になるのかは法則がありません。
中には複数種類のアオリストが共存している動詞すらあります。
結局は1個1個の動詞について、
アオリストがどうなるかを覚えなければならないので、
語根を知る必要はない、というわけです。
アオリストには3種類あり、語尾は次のようになります。
3つの型すべてにいえることですが、以下のような語尾をつけるだけでなく、
語頭に
をつける場合があります。
●第1類
|
◎能動態 | 単 | 複 |
◎反射態 | 単 | 複 |
1人称 |
  ,  ,   ,      |
       ,  ,      |
1人称 |
|
      ,      ,        |
2人称 |
    ,  ,      |
    ,    |
2人称 |
    |
      |
3人称 |
    ,      |
    ,    |
3人称 |
    ,   ,   |
     ,   ,     |
●第2類
|
◎能動態 | 単 | 複 |
◎反射態 | 単 | 複 |
1人称 |
  ,  ,         |
       ,    |
1人称 |
|
     |
2人称 |
     |
    ,    |
2人称 |
   ,      |
      |
3人称 |
 ,     |
    ,        |
3人称 |
     |
    ,        |
●第3類
|
◎能動態 | 単 | 複 |
◎反射態ナシ |
1人称 |
   ,    |
        |
2人称 |
   |
        |
3人称 |
   |
       ,    |
もちろん、すべての動詞がこの3種類すべての変化をするわけではありません。
動詞ごとにどの型になるかが決まっています。
中には複数のアオリストを持つ動詞もありますし、
語頭に
をつける動詞とつけない動詞とがあり、
かなり混沌としています。
結局は1つ1つ出てきたものを覚えるしかありません。
どの動詞がどういうアオリストになるかは、
語彙集のそれぞれの動詞の説明文中に書いてあります。
作文や会話をするなら動詞をひいてそのアオリスト型を覚えていけばいいのですが、
読解の場合は時としてもとの形の推測が困難な場合がありますので、
全文検索機能を使って探してみてください。
たいていは3人称単数の形が載っているはずなので、
それ以外の形の場合は、
語尾とおぼしき部分を抜かして入力することです。
上記3つの型のうち、第2類の変化をする動詞が一番多いので、
まずは第2類を覚えていきましょう。
- アオリストの用法
特に変わった用法はありません。
現在形のかわりにアオリストを使えば過去の意味になるというだけです。
変わったところでは、

(するな)とともに用いて禁止を表すというのがあります。
この場合は過去に訳してはいけません。
ただし
の後には命令形など他の形も用いられるので、
いつでもアオリストというわけではありません。
- 完了
上述のように完了はすたれてしまったのですが、
化石的に数語が残っています。
このうち

(言う)はけっこうよく出てきます。
辞書には

を代表形として載せるのが普通です。
   | 言った(単3) |
   | 言った(複3) |
      | 言った(複3) |
    | 知った(複3) |
     | 知った(複3) |
    | あった(複3) |
サンスクリットとの対照
-
パーリ語のアオリストは、サンスクリットでいう過去(インパーフェクト)とアオリストが渾然一体となったものです。
だから1つの動詞に複数のアオリスト形があったり、
で始まらないアオリストが多かったりするのです。
上記の3つのアオリスト型をサンスクリットと対照させると、
- 第1類=語根アオリスト、
アオリスト、過去(インパーフェクト)
- 第2類=

アオリスト
- 第3類=
アオリスト、

アオリスト
というふうになります。
もっとも第2類や第3類であっても、
で始まらないものが多い点は、サンスクリットと大きく異なるところです。