[補講 by まんどぅーか]

外連声(2)


 今回の補講も、本編の各項目の順序に即して進めていきます。
  1. 絶対語末について
     本編16-18および20は、いわゆる「絶対語末」に関する規則です。
     サンスクリットの音韻は複雑なくせに、 語末に来ることのできる音は限られています。 母音ならばすべて語末に来ることができますが、 子音については、語末に来られるかどうかについて、厳しい制約があります。
     まず、子音は1つしか来ることはできません。 英語では、pianist、strings みたいに語末に複数の子音が来てもかまいませんが、 サンスクリットはダメというわけです。
     しかも、本編17、18にあるように、子音でも語末に来られるものと来られないものがあり、 けっこう厳しい制約になっています。 また、19をとばして20を見てください。 もダメで、になるというわけです。 以上を図にまとめると次のようになります。

     赤丸をつけたものが語末に許される子音。 横線をつけたものがダメなもので、矢印で、何に変わるかを示しています。 わずらわしいので略しましたが、本編18にあるとおり、になることもあり、 になることもあります。
     本編では説明が抜けていますが、もダメで、になります。 もダメなのですが、ホイットニーの文典によれば、 が語末に来る可能性は絶対にないので、規則化しなくてOKというわけです。

     ところで、本編のネタ本『実習梵語学』では問題がないのですが、 「絶対語末」に関する初等文法書の説明は、かなり混乱を招いているようです。 たとえばゴンダ文法では「文または詩の行の終わりにある語の末尾」などと書いてありますし、 辻文法では「例えば文の最後の位置」などと書いてあるので、 本当に文の最後のように思ってしまう人が多いのですが、 そんなことはありません。 要するにただの「語末」ととらえてくれて結構です。
     ただ、この場合の語末というのは少々説明がいります。 「現実に目に見える形での語末」ということです。 辞書や語彙集を見ると、 (それ)、(方向)、(憎む)、(声)のように、 絶対語末に許されないはずの子音で終わっている語がいくつかありますが、 これらはこのままで現実に目に見える形で登場することはありません。 必ずこのあとに語尾や別の語がついたりした形で登場します。 変化表を見ていただければわかりますが、これらの語に語尾などがついて、 現実に目に見える形になると、必ず絶対語末規則が守られているのがわかります。
     なお、に関しては、絶対語末に立たないのですが、 変化表にはで終わっているものがあります。 これらは現実にはになります。 ここらへんの問題については、 雑感集「絶対語末」を見てください。

     絶対語末規則は非常に重要なのですが、 実は入門者はあんまり気にする必要はありません。 今後イヤというほど出てくる語形変化表では、もう絶対語末規則が適用されているからです。 とりあえずは、サンスクリットではすべての子音が語末に来られるわけではないのだ、 ということだけ、頭の片隅にとどめれば十分です。
     ただし、本編20の、「になる」だけは、絶対に覚えます。 当サイトや(事実上日本で標準初等テキストとなっている)ゴンダ文法では、 を変化表に掲げる流儀だからです。

  2. 子音で終わる語の外連声規則
     以下、本編では、語末が子音の場合のサンディ(外連声)規則が延々展開されています。 これらを全部覚えなければならないのかと思うと気がめいりますが、 規則の中にはたまにしか出てこないものが多いので、 とりあえずは頻繁に登場するものだけ覚えましょう。 それ以外のやつは、読解演習で出てきたときに見れば結構です。 「あれっ、こんな語尾は変化表にないぞ」「こんな語は語彙集にないぞ」 と思ったら、ここを見て、サンディの可能性を探ってください。
     また、当サイトの変化表の「連声法」の中にある、 「連声法・解読篇」は、 サンディされた結果としての現実のテキストから、 サンディ前の形の可能性を調べられるので、非常に役に立つと思います。

     まず、大原則として、以下の規則は、絶対語末規則を適用した後の形からスタートします。 ただしにさせず、のままで見てください。
     それから、本編の各例の結果は、 のように、分かち書きされていませんが、 これは本編のネタ本『実習梵語学』が、 デーヴァナーガリーの分かち書き規則をローマナイズでもそのまま用いているからです。 一般的には のように離して書かれます。
    1. 語末のが、コイの滝登りよろしく、 語頭にさかのぼってしまうという風変わりな規則です。 これはめったに出てこないので入門者は無視して結構です。
    2. になるというもの。くどいですが超重要です。
    3. 有声音が無声音になったり、その逆になったり、鼻音化したりする規則です。 これはけっこう重要です。 ただ、頭のいい方は気づくことでしょう。「この規則はちょっとおかしいぞ。 絶対語末規則を適用させていないじゃないか。 と書いてあるが、 絶対語末にはは来ず、すでにになるはずなのだ。 も、 と書かねばならないはずだ」 と思うことでしょう。 はい、その通りです。 が、人間の頭は、あまりに規則的なものを理解しにくくなっており、 規則には多少の迂回路を残しておいたほうがわかりやすい、と申し上げておきます。
    4. 語頭のの変化。あまり出てきませんが、 出てきたときにはけっこう気づきにくい規則です。
    5. -29. とりあえずナナメ読みして、こんな規則があるんだなということを、 頭の片隅にとどめておいてください。
       しいてしっかり覚えるとすれば25です。 語頭のは、(これは次の26かな)の後では、 に変わってしまうというのです。 そう頻繁に出てくるわけではありませんが、なぜ重要かというと、 語頭子音が変わってしまう規則だという点です。 サンディの規則は、多くは語末の形が変わるので、 たとえうろ覚えでも辞書や語彙集で目的の単語を探すことが可能ですが、 語頭子音が変わってしまうとまったく違ったページに誘導されてしまう危険性があるわけです。 語頭がのときは、ひょっとしたらかな、と思いましょう。 あとは23の規則で、語頭がだったら、それはかもしれないというわけです。
    6. が子音の前でになるというものです。 ものすごくたくさん出てきますので、絶対に覚えてください。 もっとも、ローマナイズでは単に点がつくだけですので、見てすぐわかります。
    7. はかなり違う音のようですが、 サンスクリットでは同じような変化をするのです。 本編ではわかりにくい書き方になっていますが、 次のようにまとめるといいでしょう。
       も……
      1. の前では
      2. の前では
      3. の前では
      4. その他は
      ただし、母音+は、次の32、33、34を見てください。

    8. 31ではになる部分がありましたが、逆にに変わる規則です。 次の33に比べて頻度は少ないですが、それでもけっこう出てきます。 それでも入門者にはわかりにくい規則だと思うので、 実際に出てきたときに実感するようにしてください。
    9. の変化。猛烈にたくさん出てきます。 なにしろで終わる男性名詞の単数主格語尾なので、 非常に頻繁に登場します。 覚えるなと言ってもイヤでも覚えてしまうでしょう。まとめると、
      1. +他の母音→+その母音。 ※この結果の2つの母音をさらに合体させてはいけません。
      2. +有声子音→+その子音。
      というわけです。

    10. の変化。33ほどではないにせよ、たくさん出てきます。 33との違いに注意しながらしっかり覚えましょう。わざと上に対応させて書くと、
      1. 。※をさらに合体させてはいけません。
      2. +他の母音→+その母音。※この結果の2つの母音をさらに合体させてはいけません。
      3. +有声子音→+その子音。
      というわけです。

  3. 内連声について
     次項「内連声」については、 末尾に書いた「まんどぅーかのコメント」で言いたいことが尽きているので、 補講をもうけません。