悉曇の意義


第3章 文字

 サンスクリットを表記するための記号、いわゆる梵字というものは、 時代の変遷に応じて書体が変化してきました。 昔日本に伝わった悉曇字は中古の書体に属しており、 現在普通に用いられているデーヴァナーガリーはそれ以降の書体です。
 悉曇文字は古来から十八章立てで字母結合の方法を示してきました。 唐の智広がプラギャー・ボーディ(、般若菩提)から伝えられたものも、 わが国の入唐僧たちが唐から伝えられたものも、 すべて十八章になっています。
 ここでは智広の『悉曇字記』によってその十八章を示し、 あわせてデーヴァナーガリーの書体を載せていきます。 便宜上、まずは少し悉曇に関して略説し(3-1〜3-3)、 それから本文に入ります(3-4以後)。

1. 悉曇の意義

 悉曇()とは、「完成されたもの」という意味で、梵語字母の名前です。 49字母のうち、母音字14は、 子音なしでも単独でア、アーという音を発することができるので、 「完成されたもの」といわれます。 また、子音(…)35は、 母音をつけてはじめてカ()、ガ()…と発音できるので、 それ自身は完成されたものではありませんが、 梵字母では必ずカ、ガ…と母音をつけて発音されるので、 カ、ガ…などの35も母音を含んでいるので 「完成されたもの」つまり悉曇といわれます。 ですから結局49字母はすべて悉曇です。