はじめに
- 名著『実習梵語学』を見直そう
ここでは、サンスクリットの文法を概説します。
サンスクリットの初等文法は結局「変化表を覚えろ」に尽きてしまうので、
誰が書いても大差ありません。
だから私が書きおろしてもいいんですが、
ここではあえて、
偉大な先人の業績に光を当てることにしました。
荻原雲来
(経歴は私立PDD図書館の人名辞典参照)著
『実習梵語学』
という名テキストがあります。
戦前から戦後しばらくまで、
およそ日本でサンスクリットを勉強した人ならば何らかの形で必ずお世話になった本です。
現在は絶版ですがいまでも仏教専門書店で見かけることがあります。
この本は説明は簡潔で要を得ているし、
練習問題も選文も豊富なんですが、
あまりに格調の高い文語体で書かれているので、
「サンスクリットの文法よりも説明の日本語の解読のほうが難しい」と陰口をたたかれている本です。
しかし、陰口をたたかれるということは、
それだけ多くの人がこの本のお世話になった(苦しんだ)ということにほかなりません。
説明文さえ現代語に書き改めれば、
非常に役に立つコンパクトな文法書によみがえるのです。
また、『実習梵語学』の特徴は、例文や選文が仏教に強いこと、
それから梵字(悉曇)をしっかり扱っていることです。
これらのことは、
仏教・密教方面への関心からサンスクリット学習をする人が多い日本にあっては非常に有利な点であり、
ひょっとしたら一番役に立つサンスクリット入門書といえるかもしれません。
そこで、本サイトでは実際に、
説明文を現代語に超訳することにより、
『実習梵語学』がいかに役に立つ入門書かを明らかにしてみようというわけです
(なーに、実際には、著者の死(1937)後50年が経過して著作権が切れてるんで使いやすいってことなんだけど)。
その一方で、このコーナーの主旨は『実習梵語学』の紹介ではなく、
あくまでサンスクリットの文法入門なので、単に『実習梵語学』の文章を現代語に改めるだけでなく、ところどころ思い切った「超訳」もしましたし、
『実習梵語学』が単に語形変化表をあげている部分は、
インターネットの強みを生かして、当サイトの語形変化表ページへのリンクとしました。
原著の演習問題も解答つきで掲載しますので、
このコーナーを熟読すれば、必ずや、サンスクリットの文法がわかることでしょう。
がんばってください。
- 「本編」について
左フレームの目次中、「本編」と書いてあるのが、
このコーナーの本編すなわち、『実習梵語学』(この項では以下「原著」という)の現代語訳部分です。
説明文冒頭の数字は原著の数字と同一ですし、
例文などはすべて原著と同じにしていますが、
一部改めたところもあります。
原著との主要な異同箇所は次のとおりです。
- 用語……現在の普通の用語とかなり違う用語を用いているので、
説明文を現代語訳するついでに直しました。
- 章番号……各説明の冒頭の数字(セクション番号)は完全に同一ですが、
章の番号は変更しました。
- 章の内容……演習の前後に同じ内容の説明が連続しているとき、
適宜前後にまとめたところがあります。
- 《 》でくくったサブタイトル……原著にあるものと、まんどぅーかが補ったものとが混在しています。。
- 変化表……変化表は原則として当サイトの変化表ページへのリンクとしました。
よって、原著の例語と異なることがあります。
- 絶対語末形……
と
で終わる語が本文や変化表に出てくる場合、
原著は絶対語末形である
に直していますが、
当サイトは
、
のままで表記する主義なので
にしていません。
この件については「絶対語末」を参照ください。
- 語根、語幹表示……原著は語根記号(
)や語幹記号(
)などは何も用いていませんが、
現在ではこういう記号を用いるのが普通であるので
(ゴンダ文法や辻文法も
は使っていないが、
授業の場ではほとんど必ず使う)、補いました。
また、多語幹名詞をあげるとき、原著は強語幹で載せる傾向がありますが、
現在は中語幹/弱語幹で載せるのが普通なので、そう改めました。
- まんどぅーかのコメント……末尾にコメントを加えたものがあります。
これはもちろん原著にありません。
- 「補講」について
本編中にも随所にまんどぅーかのコメントも入れましたし、
つまずきやすいと思われる部分には補講も入れました。
左フレームの目次中「補講」と書いてあるのがそれです。
補講はもちろん『実習梵語学』には存在しません。
完全にまんどぅーかが書いたものです。
- 「仏梵」について
仏典に用いられているサンスクリットは、「仏教混淆サンスクリット」
(Buddhist Hybrid Sanskrit)と呼ばれ、
標準のサンスクリットとかなり異なります。
これについては昔から定番の参考書として、
Franklin Edgerton : Buddhist Hybrid Sanskrit Grammar and Dictionary, 2 vols.という本があります。
この文法編はよくまとまってはいますが、
英語で書かれていること、ハンディではないことが欠点です。
そこで、この本の説明のエッセンスのみをまとめて、
標準サンスクリットの文法と対照できるよう、
このコーナーにぶちこんでみました。
それが左フレーム目次の「仏梵」です。
クリックすると、
その文法事項に関する仏教サンスクリットの相違点を見ることができます。
- 演習について
演習は原著『実習梵語学』に存在します。
ただし原著はローマ字のみで、
分かち書きはデーヴァナーガリー的(つまり、前語末が子音の場合は分かち書きしない)になっていますが、ここでは普通の分かち書きに改めました。
左フレームの目次の「DN」は、問題文をデーヴァナーガリーで書いたものです。
デーヴァナーガリーの状態から練習したい人はこれを用いてください。
解答はまんどぅーかが作成したものであり、原著にはありません。
演習のやり方に関するアドバイスは、演習1中に書きました。