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勉強法−再びカリキュラムについて

Since 2004/8/10 Last Updated 2004/8/11


 再びカリキュラムの話題である。
 別の用事で図書館にいき、 本が出るまでの長い長い時間の退屈しのぎに(こう書くと、ここがどこの図書館かわかるよね) 雑誌記事検索をしていたところ、 ゴンダ文法の訳者、鎧淳先生が、 ゴンダ文法の出版社・春秋社で出している雑誌「春秋」の1996年8・9月号に 『サンスクリット語初歩の学習法について』という小文を書かれておられるのを発見した。 入門以来ずっとゴンダ文法と格闘し、 ゴンダ文法の訳文の悪文ぶりに悩まされてきたまんどぅーかとしては、 鎧先生が懺悔でもなさっているかという野次馬根性で一読してみた。 え、読みたい? まんどぅーか友の会に入会してくれればなんとかなるかもしれないな。
 さすがに懺悔はなさっていなかったが、「筆者が今日なお、G文法(ゴンダ文法のことね)の学習者たちから耳にするのは、例えば大学の授業などで、G文法の履修が一年間では到底終わらないという苦情である」と嘆いた上で、 「遣りようによっては、三週間でSkt文法の骨子を会得することも不可能ではない」 とか、後述の「勉強の仕方」を紹介した上で、 「(この)学習法に依るならば、学習者が練習題I-XXまでを、 例えば三か月の短期間に、大学の授業ならば夏休みの前までに学習しおえるのは、 決して難しいことではない」と太鼓判を押しているのを読んで、 苦笑してしまった。

 ゴンダ文法が一年で終わらないのは大学の授業のシステム自体の問題だと思う。 1年は52週あるが大学は長い休みがあったり行事があったりで、 1年間にできる授業数はせいぜい25回程度。 1年の半分は休みなのだ。 90分の授業では練習題を1章終えるのがせいいっぱい。 とすると練習題だけで20回の授業が必要。 残りは5回ほどしかない。けっこうぎりぎりなのだ。
 まんどぅーかが勉強している東方学院も、 こういう大学のシステムにならっているので、やっぱり年間24回しか授業がない。 夏休みまでの授業回数は13回で、 最初に数回音論だの連声法だのの授業があったあとは、 文法は単に「表を見ておけ。必要な情報はここに書いてある」という説明だけで、 ひたすら練習題を訳している。 生徒はまんどぅーかを含めてみんなばりばり予習してくるので、 学生の質が低くて進度が足踏みしていることはない。 それでも練習題は8までしか終わらなかった。
 一週間に2コマ3コマ授業ができるなら、 たしかに夏休み前に終えられるかもしれないが、 「外国語学部サンスクリット語科」じゃあるまいし、 仏教学部の基礎専門科目として週1コマでやるところが多いから、 やっぱり一年で初等文法を終えるのがやっとなんではないだろうか。
 まあそれでも本来初等文法は、 一年もかけてやるものではなく、 数ヶ月内に短期速成しないと身につかないのは確かである。 できれば一週間に複数コマほしいし、 でなきゃ「文法事項は自宅でゴンダ文法を読め。 授業はひたすら練習題の演習だけだ!」 とするか。 でもゴンダ文法の日本語訳の悪文ぶりでは、 しっかり教師が通訳しないと学生は解読できず、 学生に自習させるのは無理ではないだろうか。 ゴンダ文法が一年で終わらない責任の一端は、 鎧先生にもあるのである。

 さて、ゴンダ文法がでたあと、渡辺照宏先生が、 ご自身の開発なさったゴンダ文法の有効な学習法について鎧先生に長電話をしたらしい。 そのやり方を鎧先生は紹介しているのだが、その部分をまんどぅーかなりに加工してここに載せてみる。
  1. 《音論−母音と子音、発音、母音の階次》(p.9以下§1、§2、§3)……完全に暗記、徹底的に記憶
  2. 《絶対語末規則》(§4)……読むだけでカッコにくくっておく。
  3. 《母音と母音の外連声》……例文ともども暗記
  4. 《性・数・格の名称、男性・中性名詞の変化》(p.21のまえがきと§21)……丸暗記
  5. 《格の定義》(p.90 §114「格と数」)……格の定義だけ読む
  6. 《外連声》……以下の順序で丸暗記
    1. 《語末のの変化》(§13)
    2. 《語末のの変化》(§15)
    3. 《語末のの変化》(§12-III)
    4. 《語末の無声子音→有声音の前で有声子音に変化》(§10)
  7. 女性名詞の変化》(§22)……丸暗記
  8. 《二重母音名詞の変化》(§31)……丸暗記
  9. が絶対語末でになる》(§14-VI)……丸暗記

  1. 《練習題I…男性・中性名詞の変化の練習》……動詞は脚注の説明だけで満足。
  2. 《練習題II〜VI…母音名詞の変化すべて》……文法事項は練習問題をやりながら参照し記憶。動詞はやはり脚注の説明だけで、せんさくしない。
  3. 《動詞の変化のアウトライン》……p.46 §57すべて(I〜VI)を読んだうえで
    1. いままでやった練習題I〜VIの脚注に出てきた動詞の形、語尾、加増音、重複の状況を確かめる。
    2. さらに「直、命、願、過」については、§60(第1類の変化表)にならって変化表を作る。
    ※なお、練習題IV-7で「偈」が出てくるのに関連して、 韻律について触れておけと書いてある。 これは渡辺先生の意見ではなくたぶん鎧先生の意見だろう。 ゴンダ文法の改訂のときに「韻律について」を追加したり、 読本『ナラ王物語』で韻律の解説を長々とやったり、鎧先生は韻律がお好きなようだ。
 この「渡辺メソッド」は、ゴンダ文法の説明の順序をちょっと組み替えているわけだが、 ゴンダ文法をやったものにとっては、さもありなんとニヤニヤして読めるところが多々ある。
 まず、母音と母音の外連声をしっかりやるのが面白い。 たしかにこれは、ローマナイズでも絶対にくっついちゃうところなんで、 知らないと本当にわかんなくなっちゃうからね。 最初に母音の外連声をやると、 「母音がくっついちゃうの!? それじゃ単語の区切りがわからなくなっちゃうじゃん!」と途方にくれるのだが、 実際はいくらしっかり理論を覚えてもやっぱり現実のテキストと格闘しないと身につかないんで、 だからゴンダ先生も、 練習題19や選文2あたりですら「ここは母音がくっついてるよ」という注をつけたりしている。 これを考えれば、あまり神経質にならなくてもいいのかもしれない。
 最初の男性・中性の格変化を覚えたあと、 とんで最後の格の定義に行くというのも納得。 こうしないと練習題を訳せない。
 外連声は、頻出するものだけを厳選してしっかりやる。それ以外はとばす。内連声もやらない。これらも納得できる。
 上記8で、二重母音の変化をさきまわりしてやるというのは、たぶん、 格変化語尾の一般形を覚えさせるということなんだろう。 ゴンダ文法にはなぜかこの表がないからね(辻文法p.31、菅沼文法p.80)。 当サイトでよみがえらせた荻原文法でも最初に載せている。 当サイトの文法概説では51。 もっとも当サイトでは、「子音一般」へのリンクにしちゃってるけど。 たしかに母音で終わる名詞はこれに従わないことが多いのだが、 でも早いうちに一般形をしっかりやっておくのには一理あると思う。
 動詞に入るときにいったん練習題の進行を止めて、復習になっているのも興味深い。 たしかにまんどぅーかも、練習題で動詞に入ったとき(練習題12)に非常にやりにくさを感じた。 それまでは変化表を覚えてなくてもなんとかパラパラとページをめくって何とかなったのだが、 動詞のときにはこれは通用しないと思ったものである。 こういうやり方もいいのかもしれない。

 長くなったのでひとまず中断。まんどぅーかも「渡辺メソッド」にならって、 理想的なカリキュラムを考えてみることにする。


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