動詞の変化(現在)


  1. とりあえず必要最小限の動詞の変化を……
     パーリ語の動詞の変化は、サンスクリットほど偏執狂的ではないにしろ、 現代のインド諸語にくらべればけっこう複雑で、 簡単に説明できるものではありません。
     本来はまず、名詞や形容詞の変化をみっちりやった後で、 ゆっくりじっくり動詞の変化を勉強するのがいいのですが、 動詞が全然出てこない文章というのは少ないので、 これではなかなか文章の読解練習に入ることができません。
     そこでまず最初に、必要最小限の動詞の変化を覚えておくことにします。 本格的な動詞の変化の勉強は、 名詞や形容詞の勉強のあとでまたやることにしましょう。


  2. ここで説明する形は……
     とりあえずここで説明する動詞変化の形は、直説法・現在・能動態という形です。 しばらくの間は、わずらわしいので単に「現在」ないし「現在形」といいます。 また、当面は動詞の変化は現在形しか扱わないので、 現在形にのみあてはまるようなことでも、 「パーリ語では動詞は……」のように一般的であるかのように書いたりすることがあります。
     現在形は、単に現在の事実だけでなく、「〜することになっている」という習慣的現在や、 「〜しつつある」という現在進行形の意味もあり、 さらには、「〜しましょうか」など近い未来を表したり、 (特に仏典の釈尊に関してなど)過去のことであっても現在形で表すことがあります。

     動詞は主語の人称と数によって変化します。
     人称は、1人称(=私)、2人称(=あなた)、3人称(=その他)の三種類です。 インドでは伝統的に、「その他」を1人称、「私」を3人称と呼んでいますが、 混乱のもとですので、 ここではヨーロッパ式に「その他」を3人称、「私」を1人称といいます。
     数には単数と複数とがあります。


  3. 動詞の変化(現在)
     パーリ語の辞書では、動詞は三人称単数の形で載っていますので、 必要に応じて末尾の形を次のように変化させます。 パーリ語の動詞の現在三人称単数は、 下で説明するを除けば、 のどれかです。 どれも という部分が共通に変化するので、 1つにまとめることが可能です。
    語尾
     単数複数
    1人称
    2人称
    3人称
    ※黄色く塗った部分では、
    もし語尾直前の母音がの場合、 長母音にします。
    (例)(行く)
     単数複数
    1人称
    2人称
    3人称


  4. の変化(現在)
     パーリ語には英語のbe動詞にあたる「〜である」「〜がある」「〜になる」 という動詞が2つあります。 一つは、もう一つはです。 あえて違いをあげれば、は「存在する」、 は「〜になる」ですが、 実際には同じように使われます。
     他の言語でもbe動詞のような頻出動詞は不規則な語形変化をすることが多いですが、 パーリ語でもやはり同様で、非常に不規則な変化をします。 その変化のしかたは次のとおりです。

     のほうはという別の動詞がまざったような変化です。 辞書ではこのも独立した見出し語として載っていることが多いです。



サンスクリットとの対照
  1. 本章は、とりあえず必要最小限の文章読解ができるようにするためのものです。 サンスクリットの動詞変化との違いは、 動詞の変化を本格的にやるときにまた説明します。 とりあえず、パーリ語には両数はないということだけ確認しておいてください。